【天啓】を受けた俺、徳を積むため窓を拭く
リアル鳩マン
プロローグ
第1話 徳を積めェー!
俺の名前は
「あのクソ芋め」
「意味わからねえよ......」
ふと廊下の方から聞こえてきてしまった。おそらくだが、"芋"というのは俺のことを言っている。あいつらまた......。
まあだがもう休み時間も終わってしまう。ここで怒っても俺には利益がない。......まあまた今度にするか。
俺は次の授業の準備をしながら窓の外を見た。外では生い茂る木々の間をすいすいと気持ちよさそうに小鳥が飛んでいた。
「あー俺も鳥みたいに飛んでみてえなぁ」
流石に最近は色々とありすぎて俺も疲れてきた。ついこの間も生徒に怒ったし、その時に置き傘を投げてしまった。今思うとあれは確かにおかしな怒り方だったが、気持ちは晴れたので良しとする。
そんな取り留めもないことを思い浮かべていると唐突に声が聞こえてきた。
『おいミウラァー!徳を積めェーッ!』
「......はい?」
この声の主は一体誰だ?ここに来て7年は経つが聞いたことのない声だ。
「見浦先生?どうしました?」
「え?あ、いやなんか声が聞こえた気がしてな」
「さっきから誰も喋ってませんけどねえ......もしかして幻聴でも聞こえたんですか?」
「......かもしれない」
最近は心臓に影ができたり、不注意で足を怪我したりでやはり心身共に疲労しているのかもしれない。
『こちら天界じゃ。とりま窓を拭け。』
「......は?」
て、天界......?こいつは何を言っているんだ?確かに俺の実家は寺だし、一応俺も仏教徒ではある。だが、本当に天界というものは存在していたのか......?
「見浦先生?」
「と、とりあえず授業行ってくる」
俺はそそくさと逃げるように授業の用意を持って職員室を飛び出した。
『こちら天界、こちら天界。改めてミウラ氏に天啓を与える』
教室を目指し、廊下を歩いているとまた声がした。すると今度は俺の目の前に文字が現れた。
【天啓1:窓を拭け】
「な、なんだこれ?て、天啓......?」
一体全体意味がわからない。なんなんだこれは......。
『こちら天界、こちら天界。おいミウラ、さっさと窓を拭け』
「さっきからなんなんだよ!」
『ん?お主に天啓を与えたのじゃが?』
「何もわかんねえよ!!」
『まあとりあえず窓を拭いて徳を積むのじゃ』
「はあ......?」
本当に何を言っているのか、何が起きているのかがわからない。窓を拭けだって......?
「なんかムカついてきたな......」
俺はモヤモヤしたまま、これから授業のある教室へと向かった。
*
教室に入ると早速目に入ったのは、今日の授業で使うプリントをやっている生徒だった。俺は"宿題"としてそのプリントを渡していたはずだ。それを家でやってこないなど言語道断である。それにさっきの件で俺は物凄くイライラしていた。
「おい、何してんだよ。宿題って言ったよな!ドアホが!家でやってこないとか授業受ける価値ねえからなこのクソボケが!」
「......すみません」
「お前もか!お前も、お前も!」
俺の指示を聞けないとか意味がわからない。ふざけるのも大概にして欲しいものだ。
「もういい、お前ら後ろ向いとけ!授業なんか受けんでいい!!」
俺はそいつらを後ろに向けて座らせた。ちょうどそのときチャイムがなったので授業を始める。
*
「起立、礼、ありがとうございました」
やっと授業が終わった。それにしても目の前にあるこれが邪魔すぎる。何が天啓だよ、窓を拭け、なんて意味がわからなさすぎる。
それでも邪魔なことは変わりないのでとりあえず拭いてみることにした。
廊下に出て、窓を拭いてみる。だが、文字は消えない。俺は掃除には手を抜けないタイプなので、汚れを見つけると徹底的に消したいのだ。
結局、窓の汚れを全て拭き取ってしまった。すると目の前の文字が光り、そのまま粒子となって消えていった。
「やっと消えたか......」
なるほど.......なんとなくわかった気がする。この、受けた天啓の行動を徳を積めるレベルまで行うと良いらしい。
『あー、あー、こちら天界、こちら天界。ミウラよ、初の天啓達成おめでとう』
「天啓達成ってなんだよ......」
『まあ今のはプロローグのようなものじゃ。今からお主にはこれから与えていく天啓を全て達成して貰いたい』
「.......」
俺は言葉が出なかった。逆にどのような返答をすれば良いのだろうか。
『それではミウラや、健闘を祈る』
「......あ、おい!ちょっと待て!」
衝撃を受けすぎて、色々聞きたいことがあったのにタイミングを逃してしまった。
「本当に何なんだ......」
俺は悪い夢でも見ているのか.......?そもそも天界が何なのかすらわからないし、多分俺だけに話しかけている。なぜこのタイミングでの天啓なんだ......?
俺がうんうんと唸っていると、スマホの通知音のような音と共に声が聞こえてきた。
『天啓を受けました!表示します!』
声と共に現れたのは新たな天啓だった。
【天啓2:黒板消しを整列せよ(窓拭きは継続)】
「これもうわっかんねえな......」
こうして俺は徳を積むために神から与えられた天啓を達成していく生活が始まったのだった。
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