第22話 自恃テリトリー1
次の日。
放課後、笑魔を美術室へ呼んだら、すぐに来てくれた。
昨日、一日休んだだけで、今日、笑魔は朝から登校していた。
今日の彼は相棒のササメは持っていないけれど(折れちゃったからね)、頭や手に包帯をぐるぐる巻いている状態。
そんなの、今や未遊から見れば、
(厨二病が疼いてやがるぜ)
ってなところだが、未遊の予想通り、周囲の女子たちは、「格好イイ」 と騒ぎ立て、笑魔の怪我について、好き勝手いろいろな憶測が飛び交っていたみたい。
「交差点で車に轢かれそうになった子供を庇って怪我をしたらしい」
「火事になった家から、老婆を救い出して怪我をしたって聞いたけど」
一番、面白かったのは、
「怪異と戦って、辛くも勝った、とかじゃね?」
なんて、真面目な顔をして言ってる子を見かけた時かな。
妄想力の強い誰かに言わせると、笑魔はこうして人知れず、世界の平和を守っているらしい。
未遊は、『オカルトが好きな妄想変人』 だと、よく言われるけれど、結構みんなもそういう話、好きなんじゃないかな? なんて思えて、楽しい。
真実に関して、笑魔本人は、特に訊かれても説明する気はないらしい。
姫乃は率先してそういう話をする人じゃないし、後は小鳥がどう出るか、と思っていたけれど、彼女も静かなものらしく、未遊も特になにも言わないまま。
つまり笑魔の怪我は、
『よくは分からないけど、たぶん格好いい理由でイケメンが怪我をしたようだ』
なんて、いまだに信じられているようだ。
(確かにカッコ良かったのかも……?)
見ようによっては、姫乃を狙うストーカーを倒すための怪我、とも言えなくない。
本人はたぶん、そんなつもりなかったんじゃないか、と思うけど。
そんなことより未遊には、今回の一件、ちゃんとオカルトの体験話として成り立っているのだろうか? ということが気になっていた。
図らずして、笑魔の腕に関する話にこじつけられそうだから、身体に関する話にはなっていると思うのだけれど。
美術室の片隅で、不幸ノートの体験話を未遊なりに、その結末を含めて笑魔に話す。
骨子の不幸ノートに書いた内容も、勝手に持ち主に返却してしまったことも、渋い顔をされるかな、と思ったけれど、意外にも笑魔は、
「そうか」
と言っただけだった。
「これ、不方くんの都市伝説に使えるかな?」
「問題ない。と、思う」
「良かった。ノート勝手に持ち出したこと、お姉ちゃんに怒られなかった?」
「ああ、たぶん」
「たぶん……」
「それより、五つ目のオカルト話にアテがあるって言ってたよな?」
「ああ、それ……」
S沢KN。
『オカルト関連に興味がある方。私の話を聞いてくれる方を募集しています』
SNSに、そうメッセージを投稿した、アカウント名である。
それを目にした時、未遊は本名の 『しぶさわ かな』 とかを、イニシャルに変えた名前なのかな? と想像したけれど、骨子の話曰く、まったく違うらしい。
S沢 (仮名) というニュアンスのほうが強いんだとか。
つまり、完全に匿名ですよってこと。
でも未遊は、彼女が隣町の学校に通っていることを、知っている。
連絡を取った時、
『直接、会って話を聞いてほしい』
とのことだったので、互いの地元を、ある程度、明かしたのだ。
「骨子さんも、S沢KNさんの話を聞きに行ったんですか? すごく詳しいみたいですけど……」
昨日、不方邸のキッチンで骨子と話した内容を、未遊は思い出していた。
骨子は首を左右に振った。
「いいえ。でも、話の内容は知っているわ。最初に彼女から、『困っている』 と相談されたのは、私だもの」
「え?」
「彼女の話、面白いわよ。それに、とても切羽詰まってる。助けると思って、ぜひ聞いてあげて」
でもね。
骨子は続けた。
「彼女は相手を見て、『本当に聞いてほしい話』 をしないことも多いの。たぶん、貴方には話さないと思うわ」
「ええ? なんで?」
「彼女は、『ただ話を聞いてくれる人』 を探しているの。黙って聞いて、それを誰にも話さない人。貴方みたいに好奇心が強い人には、きっと話さない。適当に、よくある怪談話を聞かされて終わりよ。でも、大丈夫。私が、『未遊ちゃんにはちゃんと話をしなさい』 って言っておいてあげるから」
「そ、それって、なぜなんですか? 話の内容と、好奇心と、なにか繋がりが?」
「それは、自分の目と耳で確かめたほうがいいわ。オカルトの体験話、聞きたいんでしょう?」
それは、笑魔がね。
そう思ったけれど、そんなふうに言われると、未遊だって気にならないはずがない。
好奇心旺盛なのは、事実だから。
『オカルト関連に興味がある方。困っていることがあります。私の話を聞いてくれる方を募集しています。詳細はDMにて』
S沢KNの、最初の書き込みである。
その次が、
『私の話は決して口外しないよう、お願いします。ただ、話を体験してくれた方、少しでも面白いと思ってくれたら、元のメッセージにリアクションアイコンをつけてくださると助かります。よろしくお願いします』
その、リアクションの数が、かなり多かったのだ。
もちろん、直接聞いた、となると、それなりに敷居が高いので、人気のメッセージに比べたらぜんぜんささやかな数だし、こういうのって、もしかしたらサクラがいたりするのかもしれないけれど、でも、そのお陰で、『あなたにオススメメッセージ』 のトップに上がっていたのは事実である。
それで未遊は、その存在を知ったのだ。
金銭は絡まないようだが、『話を体験してくれた方、少しでも面白いと思ったら』 という書き方が、ちょっと面白くて、未遊をワクワクさせた。
未遊と同じように思った人が結構いるのか、そのメッセージにつくリアクションが、日に日に増えているのも、未遊の好奇心を駆り立てた。
でもこれまでの経験上、こういう場合、実際の体験話であることは、まずないだろうから、最初は一人で聞きに行くつもりだった。
つまり、最初はただの、『怖い話を聞く会』 だと思っていた。
未遊はS沢KNにDMを送った。
返信はすぐにあった。
『お願いがあります。信頼できる友達を、できるだけ多く連れて、私の話を聞きに来てほしいんです』
『内容に関しては、絶対に他言無用でお願いしたいです』
『ただ、話を聞いてくれるだけでいいんです』
『できるだけ沢山の人に話を聞いてほしいのですが、約束を守れない人は絶対に連れてこないでください。聞いた内容を、誰にも漏らさないこと。そこだけは守って欲しいです』
『よろしくお願いします』
笑魔には、『ずいぶん困っているみたいだ』 なんて言ったけれど、こんなのも演出の一つなのかもしれない、と思っていた。
もしかしたら本当の体験談の可能性もあるから、笑魔が希望するなら一緒に行きたいな、くらいの軽い気持ちだった。
だからストーカー事件ですっかり存在を忘れていて、骨子に言われて思い出したのだ。
骨子には初めて会ったし、彼女のことをさほど知っているわけではないけれど、でも、未遊の中では、『この人が言うなら間違いない』 と思えるくらいに、信頼できる人だと思えたので、未遊は昨日の夜、
『まだ困っていますか? これからでも間に合うようなら、話を聞きに行きたいです』
再びメッセージを送っていた。
やはり返信はすぐにあった。
『急いでください。よろしくお願いします』
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