そして私は、奴隷と化す。
❄️冬は つとめて
第1話 そして私は、奴隷と化す。
彼女を拾ったのは私だった。
路地裏で汚れ痩せ細り泣いていた彼女を見つけたのは私だった。私は震えながら泣いている彼女を放っておけなかった。だから、彼女を連れて家に帰った。
名前も持たない、孤児。
家族は家に入れるのを反対した。だが衰弱しきった彼女をやはり放ってはおけなかった。優しい家族だ。
彼女の名前を『リリス』にした。花のアマリリスから取った美しい名前だ。彼女が回復し、元気になってから家族が変わった。
彼女はとても可愛らしかった。
大きな黒い瞳、ビロードのような黒い髪、しなやかな体。可愛らしい振る舞い、猫なで声。どれもが家族の心を魅了した。
家族はこぞって彼女に気に入られようと、美味しいご飯を食べさせアクセサリーを買い与え媚を売った。彼女の感心を得ようと贈り物を買い漁った。
彼女は贈り物に興味を示しては、すぐに飽きて放り出す。次々と、部屋は贈り物でいっぱいになる。
彼女は時々癇癪を起こす。周りにある物を壊し、部屋をめちゃくちゃにする。粗相をして、部屋を汚す。
私は彼女に怒った、だが家族は彼女を庇う小さいからと。私を悪者にし彼女を抱き締める。私だって怒りたい訳ではない、でもしつけは大事だから。
手を差し出すと彼女は私の手を叩いた。彼女は私を睨みつけ威嚇する。
なぜ? 貴方を助けたのは私なのに。
甘やかすだけの家族に彼女は愛想を振りまく。私が近づくと逃げていく、怒鳴り私を傷つける。
酷い、あの人の膝の上に乗るなんて。デレデレになるあの人、彼女は可愛い顔と猫なで声であの人に触れる。
ああ…… 私にはあんな顔を見せてはくれない。こんなに大好きなのに。
お願い、これ以上私を傷つけないで。
彼女が来てから私は変わった。
彼女の為にお金を稼ぐ。旅行に行くことも、新しい服を買うこともなくなった。乱れた部屋を片付け、彼女の世話に明け暮れる。
そして私は、奴隷と化す。
これは彼女を拾ったあの時から決まっていた事なのかもしれない。でも仕方がない、彼女はとても可愛く魅力的なのだから。
だから……
「お願い、もふもふさせて!! 」
「そんなたまにしか来ない人の膝の上で寝ないで!! 」
「病院に連れて行ったのはあなたの為なの、嫌わないで!! 」
『シャァァァ!! 』
今日も彼女は、私の差し出す手にねこパンチを炸裂させる。
い、痛い……
【完】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます