恋活イベント支援編!『ハート・ラボ /ファーイースト東京からはじまる恋』

青葉 柊

🌅プロローグ & 第1話 恋活イベント、申し込みました。

✨プロローグ


夕暮れの川面がゆっくり色を失う頃、

相沢遼(あいざわ りょう)はスマホを握りしめていた。


画面に表示されているのは

「恋活イベント参加申し込み」 の文字。


──押すか、やめるか。


二択の間で、心臓だけが勝手に忙しく動いていた。


遼は三十二歳。会社と自宅を往復するだけの毎日。

恋人いない歴は、笑えないくらい長い。


恋がしたくないわけじゃない。

ただ、自信がない。


人と話すのが苦手で、

雑談のきっかけすら浮かばない。


それでも、ふと気づけば

「ひとりで生きる毎日」に少しだけ疲れていた。


そんなとき、ネット検索で偶然目に入ったのが

《ハート・ラボ恋活支援室》 という小さな相談ルームだった。


“恋愛初心者のための個別相談”

“恋活イベントのサポート”

“心理カウンセラーによるアドバイス”


──怪しい。

でも、気になる。


結局、フォームから予約ボタンを押していた。


初回オンライン相談の日。

モニターに映ったのは、落ち着いた声の女性だった。


「はじめまして。ハート・ラボの白石真由です。

 今日は、恋活イベントの参加についてお話を聞かせてくださいね。」


彼女は大学院で心理学を学びながら、

“恋愛支援”を専門にしたカウンセラーとして活動しているという。


柔らかい雰囲気だが、言葉には温度と芯がある。


「相沢さん、恋愛のこと……不安ですか?」


図星だった。

遼は正直にうなずいた。


「は、はい……。人と上手く話せないし。

 イベントに行っても、誰とも話せず終わる気がして……」


真由は少し微笑んでモニター越しに言った。


「大丈夫ですよ。

 恋は“経験値”じゃなくて、“準備”で決まるんです。」


その一言に、不思議と胸が軽くなった。


「よかったら、参加まで一緒に準備してみませんか?

 会話の練習も、プロフィール文も、全部サポートします。」


まっすぐな瞳。

逃げたい気持ちより、試してみたい気持ちが勝った。


「……はい。お願いします。」


言った瞬間、心の中で

“何かが動き出した音”がした気がした。


真由は、画面越しに優しくうなずいた。


「では、恋活イベント。申し込んでみましょう。

 これは、相沢さんの“恋の第一歩”ですよ。」


遼はゆっくり深呼吸をして、スマホの画面に視線を落とす。


申し込みボタン。


震える指先が、画面の上で止まった。


──押せる。

今日は、押せる。


小さな“タップ”の音が、

遼の未来をほんの少し、明るく塗り替えた。


こうして、東京の端っこで。

ひとりの男の“恋の物語”が静かに動き始めた。

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