『恋愛裁判 - The Guilty of Love -』

しゆう

これは “運命”と“執着”と“赦し”が絡み合った 愛の物語。

「被告人・綾瀬悠斗。」


呼ばれた瞬間、胸が焼ける。

その声は、僕が世界で一番愛した人の声。


裁判官席に立つ彼女の姿は、何度見ても息を呑むほど美しい。

白いローブ、冷たい瞳。

その奥に揺れるのは、怒りでも軽蔑でもなく――


壊れた愛の残骸。


「前へ。」


僕は一歩一歩、罪という重荷を抱えたまま進む。

でも、たどり着きたい場所はただひとつ。

――彼女の心の隣。


「罪状を読み上げます。」


彼女が口を開くたび、胸が裂ける。


「あなたはわたしを愛した。

そして同時に、わたしを孤独にした。」


淡々とした声なのに、

その言葉の一つ一つは僕の心臓を切り裂いていく。


「わたしを泣かせた夜、

あなたは気づかないふりをした。」


涙がぽたり、と裁判官席に落ちる。

それは彼女が必死に隠してきた弱さの証。


僕のせいだ。

全部。


「あなたは――」


彼女は紙を握りしめて、小さく震えながら言った。


「わたしの世界そのものでした。

なのに、わたしを不安にさせた。

わたしの心を殺した。」


喉が潰れそうになる。

胸の奥が熱くて、痛くて、どうにかなりそうだ。


「……被告人。最終弁論を、どうぞ。」


僕は、嘘もごまかしもやめた。


「君がいないと、生きる意味がない。」


その瞬間、

彼女は目を見開いた。


「愛してる。

破滅しても構わない。

人生を失ってもいい。

魂が灰になっても――君だけは失いたくない。」


僕の声は震えていた。

それでも必死に言葉を重ねる。


「もしこの罪が消えないなら、

僕を縛って、閉じ込めて、罰を与えて。

君の檻なら、喜んで一生囚われる。」


法廷の空気が揺れた。


「……なんて、ひどい人。」


彼女は唇を噛む。

涙を流しながら。


「そんなふうに愛されたら……

……わたしだって、抜け出せなくなるじゃない。」


そして彼女は、裁判官席から降りた。

白いローブの裾を引きずりながら、

ゆっくり、ゆっくり、僕の方へ。


近づくたび、

光が揺れ、世界が滲む。


僕の目の前に立つと、

彼女はそっと僕の頬に触れた。


「わたしだって……まだあなたを愛してる。」


心臓が止まりそうだった。


「でもね、悠斗。」


彼女は美しい涙をこぼした。


「こんなに苦しい恋なのに、

どうして、離れられないんだろう?」


それは、僕らふたりの呪いにも似た問いだった。


僕はそっと答えた。


「離れられないように、僕らは最初から作られていたんだ。」


彼女の瞳が震える。


「……判決を言い渡します。」


法廷の天井から光が降り注ぐ。

世界が息を潜める。


「被告人・綾瀬悠斗を――」


一拍の沈黙。

落ちる涙の音。

震えるまつげ。


そして。


「終身刑に処す。」


僕は微笑んだ。


「刑務所は……?」


「わたしの隣。」


耳元に落ちたその囁きは、

どんな判決より甘く、どんな罰より重かった。


「あなたは死ぬまで、わたしだけを愛しなさい。」


彼女が宣告し、

僕は誓う。


「喜んで、全人生を君に捧げる。」


世界が白く染まる中、

彼女はそっと、僕の唇に触れた。


それは赦しのキスではなく――

二人の破滅を永遠に結びつける、運命のキス。


誰も逃れられない恋。

誰も救えない愛。

誰より深く互いを傷つけ、

誰より深く互いを求める――


これは、ふたりだけの“有罪宣告”。


そして僕たちは堕ちていく。

世界で一番幸せな囚人として。

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『恋愛裁判 - The Guilty of Love -』 しゆう @togetogetogeji

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