Ⅱ.互いに羨むふたつの煌めき

4.人はどうして汚部屋を作ってしまうんだろうね?

 企業Vtuberを辞めて個人Vtuberとしてデビューをしたい。


 だから一緒にデビューしてくれないか。


 のどかがそんなとんでもない話を持ってきたのが数日前。


 そんなとんでもない話、いくら無責任に生きている私としても流石に即答は出来ないし、なによりもまず酒の席でするような決断じゃない気もする(これに関しては何も考えずにノータイムでアルコールを注文した私も悪い)から、また後日、時間を取ろうじゃないかということで、取り合えずは和の話を私が聞く形でその日は解散となったのだ。


 で、今日。


 問題の「また集まろう」の日。


 今日は流石に酒を飲むわけにもいかないということで、完全夜型な和の生活スタイルに合わせる形で集合時間を決定して、二人で夕食(和にとってはこれが朝食に当たるらしい)を食べて、その足で和の家へと直行した。


 そこまではいい。問題は、


「なんだ、これは」


「ん?あ、気にしないでその辺座って」


 その辺、とは一体どの辺のことを指すのだろうか。一番可能性が高いのはベッドだったんだけど、その上には和が座ってしまった。


 その次に可能性が高いのは食卓に使っていると思わきローテーブル。その脇に申し訳程度に開いているスペースだろうか。けど、その周辺には恐らく和が普段使うアイテムがずらりと並べてある。


 こんなゴミ溜め……失礼、ゴミ屋敷……失礼。少々「片づけが出来ていない部屋」でも、あそこだけはちゃんとした秩序があるような気がしてならない。なので出来れば避けたい。


 ぶっちゃけ「なんかこれちょっと邪魔だな」と思って動かした瞬間怒られそうな気配がぷんぷんするんだよね。そんなに神経質になるなら部屋をまず片付けろと言いたいけど。


 けれどその二つの選択肢が駄目となると、


「なあ、和」


「なーに?あ、飲み物欲しい?取ってこようか?」


「いや、そうじゃなくて……」


 和が首をかしげる。お前この状態で良く私の要望が「飲み物を欲している」だと思ったな。大丈夫か、色々と。


 私がため息ひとつついて、


「なんだ、この部屋は」


「え、リビング兼寝室?」


「んなこと聞いてねえよ」


 私はびしっと山積みになったビニール袋を指さして、


「なんだよ、このゴミの山は」


 正直、嫌な予感はしていた。ここへ来る前に「そういえば年末よりはマシかどうか聞いたら曖昧な返事してたよな」ということを思い出してからはぶっちゃけ覚悟も決まっていた。だとしてもこれは酷い。人間の居住空間じゃないだろ、これ。


「あー……」


 和が苦笑いして、


「ほら、忙しいから」


「人は忙しいからでこんなデカいゴミ袋一杯のゴミを何個も放置しません」


「てへ☆」


「はったおすぞお前」


 和がもじもじと指と指と突き合わせながら俯き加減で、


「最初はね、ちゃんと持ってってたんだよ?このマンション二十四時間ゴミ出し出来るし。だけど、いつでもできるから困ってないしそのうちでいいかーってなって、ゴミ袋満杯になったら、じゃあ新しいの出さなきゃねって感じで出して、それの繰り返しで」


「このゴミの山が出来上がった、と」


 無言で頷く。


 ため息。


「はぁ……まあ、めんどくさいのは分からんでもない。分からんでもないけど、この状況はいくら何でも困ってないには分類されないだろ」


「えーそんなことないよ?ほら、そこ。床見えてるでしょ?そこに座って生活すれば大丈夫だし」


「それは大丈夫とは言いません。全く……」


「えっと七海ななみさん……?一体何を?」


 私は和に向かって、人差し指をびしっと向けて、


「片づけるんだよ、この部屋を。ほら、手伝う」


「えー……」


「よーしじゃあ要らなそうなものをどんどん捨てて行こうねーまずは一番デカいパソコンから……」


「わー!分かった!手伝う!手伝うから!」


 慌ててベッドから飛び降りる和。


 全く。


 なんでこんなことになってるんだよ、ほんとに。



                    ◇



「おお……床ってこんな感じだったんだ」


「床とご対面して感動するやつ初めて見たわ……」


 それから約一時間。私(と一応和も)は、大量のごみ袋たちを、取り合えず全部マンションのごみ収集所に持っていくという作業をひたすらやった。


 幸か不幸か、和が「ゴミ袋につめるところ」までは概ねやっていたこともあって、分別なんて全くなされていないことに目をつぶれば、ほぼほぼ運ぶだけでギリギリ人並くらいの居住環境に戻すことが出来た。


 分別が出来ていないのは……まあいいだろう。大体なんでも燃やせば処理出来るからな。今時は焼却処分場が高性能だから意外と問題ないって聞いたこともあるし。まあ、それ以上に、あのゴミ袋を分別する作業なんざ絶対やりたくはないから、どうあがいても全部焼却処分場行きなんだけど。


 で、


「さて、まあ座ってくれ」


「あ、そんなお構いなく……逆じゃない?」


「そうだけど、今はそんなことよりも、話さないといけないことがあるんだから」


「そうだったそうだった。なんか余計に時間食っちゃったし……あ、やめて、その辺に転がってた三日坊主の腹筋ローラーに対して新たな使い方を付与しないで。意外と頑丈で重さがあることをうちの頭部を用いて披露しようとしないで」


「はぁ……全く」


 私は腹筋ローラーを元の位置(その辺に転がってたから定位置があるのかも分からないけど)に戻し、


「まず結論からいこうか」


「う、うん」


 真面目な雰囲気を感じ取ったのか、和は急に正座になる。こういう察知能力はあるんだよな。


「私の正直な気持ちで言えば、デビューはしてみたい」


「おお!」

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