2.??「全部同じじゃないですか!?」
というのはまあ胸の奥にしまっておくとして、
「取り合えず、食べようぜ。焦げちゃうし」
「あ、う、うん」
半分は本当だ。時間のかかるやつからいこうとは思ったんだけど、「カルビ食べたくて頼んだんだから焼いちゃおうぜ」という、脳内のデビル
が、もう半分はただの誤魔化しだ。かける言葉が見つからない人間の逃げでしかない。
だって、ねえ?なんて言えばいいんだよ?私みたいな人間が簡単に「やめるな」とでも言うのか?あまりに無責任で、あまりにも短絡的じゃないか。“推し”を追い、夢を叶え、必死に頑張って来た友人にかけるべき言葉なんて、思いつくはずもない。
結果として私は沈黙を選、
「ちょちょちょちょ」
「え?」
「いや、え?じゃなくて。それはまだ早いでしょ」
「え、そうなの?」
「そうなの?って……」
一体私は何か悪いことをしましたでしょうか?みたいな視線を向けてくる
「取り合えずそれは戻しなさい。それ。そう。その鶏肉です。そう……良い子だ」
「……なんか馬鹿にしてない?」
「馬鹿にはしてないけど、え?焼肉よく行くって言って無かったっけ?」
「そうだよ?」
「え?なんか特殊な訓練を受けてらっしゃいます?」
「なんで。至って普通の女の子ですよ」
「女の子っていうには年齢が、あ、やめて、私の手を金網で焼いて美味しくいただこうとしないで」
「全く……七海はデリカシーっていうのを学んだ方がいいよ」
「デカシリー?」
「そういうところ!」
怒らせてしまった。
取り合えず本題に戻そう。
「それはまあ置いとくとして、え?焼肉で肉焼いたりしないの?」
「ううん?」
「ううん?と来たか……」
肉を焼くと書いて焼肉なのにね。和は「何か問題でも?」といった感じにさらっと、
「うん。基本先輩が焼いてくれてたから」
「……そういうのって後輩がやるもんじゃないの?」
「どうなんだろ?でも、うちの時は割とママ……じゃなかった、先輩がやってくれてたかなぁ」
「今ママって言った?」
「ホントに何でもやってくれるんだよねぇ。はぁ……うちの部屋も片付けてくれないかなぁ……」
「ねえ今ママって言った?」
「あ、なんだったら七海、片づけくれない?部屋。アルバイト代出すよ?」
「片づけねえ……程度と額面によるかなぁ……年末よりはましだよな?」
「あー…………」
「あ、これもそろそろ良いかも。うわぁー美味そうだなぁーうおォン、私はまるで人間火」
「やめてお願い無視しないで助けてください」
「分かった分かった……」
なんだかとっても切実だった。こいつホントに片づけ出来ないからなぁ……。
私は話を戻して、
「んで、和さんや」
「なんだい、七海さん」
「鶏肉っていうのはね、良く加熱しないと危ないんだよ」
「加熱したよ?」
そんな曇りなき眼で見られても……。
「まあ加熱はしてる。けど、それは外側だけ」
私はトングで肉をぐっぐっと押して、
「ほら、ちょっと柔らかい感じがするでしょ?これがもっとしっかり跳ね返すようにならないと中までは火は通ってないの。だから、まだ駄目」
「へー……凄いね。なんでも知ってるじゃん」
「別になんでもってレベルじゃないと思うけどな、これくらい」
私はトングを金網の横に置いて、
「んじゃ、取り合えず食べようぜ」
「そう、だね」
「それじゃ、ご馳走になります」
「はい、ご馳走します」
思わず顔を合わせて笑う。良かった。大分元気にはなったみたいだ。
私は欲望に負けて焼いたカルビを食べ。
「何これ!美味っ!いや、カルビなんだから美味いんだけど。うーま。肉質が良いってこういうのを言うんだな」
「美味しい?」
「もちろん」
「なら良かった」
「なんだよ、心配だったのか?」
和は小刻みに首を横に振り、
「う、ううん!そんなことはないよ?だけど、うちも前に一回来たっきりだったし、その時は味わってる場合じゃなかったって言うか」
「味わってる場合じゃなかった……?」
「うん、まあ、そんな感じ」
なんだろう。この歯切れの悪い感じ。味わってる場合ではない。っていうことはこの高級焼肉の味以上に意識を向けなければならない何かか、向けたくなる何かがあった、
「あ」
「な、なに」
「もしかして、あの人に連れてきてもらったとか?なんだっけあの……
和が目を見開いて、
「な、なんで分かるの!?」
「や、別に分からないけど」
「で、でも、今、アイ先輩とって……」
「消去法」
「しょう……きょほう……?」
「そ。私よりは無頓着とは言っても、お前だって焼肉は好きだろ?」
「う、うん」
「先輩に連れてってもらった。美味しかったみたいな話は聞いたことがある。だったら味の印象が無いのはおかしい。となったら、味に対して意識を向けられない要因が何かあったってことだ。面接とか、重要な商談なんてものを経験してないのは私でも知ってる。そうなると可能性として残ってるのは「肉の味よりも一緒に行った相手の方が重要だった」のかなぁって。なら、推しの先輩の可能性は高いかなって」
和はしみじみと、
「……凄いね……名探偵だ」
「んなことないぞ。ただただ本命の位置にコインをベットしただけだ。推理もクソもない」
「そうかなぁ……」
なんだか納得がいかないようだ。大したことじゃないんだけどな。
暫くの沈黙。
残った「時間のかかるやつら」が焼ける音がする。どこかから団体客の笑い声が聞こえる。
私ずばり、切り出す。
「んで、辞めるってのは卒業ってこと?」
「あ…………」
虚をつかれた和は暫く答えに困っていたが、やがてぽつぽつと語り出す。
「えっと……ね、正確には「活動終了」になる、予定」
「なにそれ、言葉遊び?」
和は苦笑いし、
「……では、ないんだけど。でもまあ、実質は卒業みたいな感じではあるかな」
「みたいな感じ……ってことは違いがあるってことか」
「うん。卒業の場合はもう完全に辞めることになっちゃうんだけど、活動終了の場合は、籍だけは残すみたいな感じになるんだ」
「籍だけは残すって……残してどうするんだよ?」
「……ライブ」
「ライブ?」
「そう。活動終了っていうことであれば、籍は残ってるから、メンバーのライブに出演したり、物によっては動画に出たりはその、出来る、みたいだから」
そこまで聞いてぴんとくる。
「あー……先輩のライブには出たいってこと?」
和が無言で頷く。なるほど、和らしい選択だ。
ただ、
「まあ、その活動終了?にする意味は分かった。けど、それも卒業と似たような形態だってことは、やっぱりその、配信とかはもうしないってことなんだよな?」
「それは……うん。そう、なると思う。まだ発表はしてないけど」
「なるほどねぇ……」
和が俯いて手元を見ながら、
「……ごめんね、手伝ってもらったのに」
「それは別に良いよ。私がやるって言ったんだから」
「でも」
「良いって。そりゃ合格決まった時は嬉しかったよ?良かったじゃんとも思った。でもそれはあくまで私の話。あれから時間も経ってる。環境も考え方も変わるだろ。和のしたいようにすればいいよ」
私はさっき和が戻した鶏肉をトングで押して確認してから、掴み、
「ほれ、鶏肉」
和の取り皿においてやる。
「あり……がとう……」
和は以前うつむいたままだ。どんな表情をしているのかは分からない。けれど、想像は出来る。私だって馬鹿じゃない。扉越しの喧騒に塗れたこの空間でも、和の声が震えていたことくらいは分かる。
沈黙。
私は思わず、グラスを手に取って、残りを煽る。金網に並べられた肉は相変わらず音を立てつづけている。
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