冷たいクリスマスプレゼント

高菜チャーハン

成美は、1番だった

「待った?」

「そんなことないよ!行こうか!」

「うん!」

そんな会話を交わした後、俺達は、クリスマス一色に染まった街へ歩き出した。


 成美とは付き合ってからもう1年になる。我ながら良い人に巡り合えたと思う。他の人とも付き合ってみたりしたが、その中でも成美が一番だった。そして今日は、クリスマスだ。思いっきり楽しむぞと心の中でガッツポーズをしながら、成美と手を繋いだ。


「今日は、美味しいイタリアンを予約したんだ。」

「え〜そうなの!ありがとう!」


 成美も喜んでくれて良かった。


イタリアンのお店に入り、注文を済ませると、少し時間が経った後に料理が運ばれてきた。


「美味しいね」

「それは、良かった!」


 彼女の喜ぶ顔を見て俺は、嬉しくなった。しかし、彼女は、時折どこか遠くを見るような他の人の事を考えているような顔をする。そんな不安をかき消すように俺は、「そろそろ出ようか?」といった。


 彼女は、「うん」と笑顔で答えた。


 夕食を済ませ、少し街を歩こうと提案し、彼女も乗ってくれた。しばらく歩いた後、少し休もうとカフェに入って程なくした後、彼女から突然の別れが告げられた。


「2時間で交通費と指名料込みで2万円になります。」


成美は、テーブルの上に置かれたエスプレッソのカップをじっと見つめながら、感情のない声でそう告げた。彼女の目は、今までの「恋人としての成美」とは全く別人の、冷たいプロの目だった。そう彼女は、お金を払って恋人を演じるレンタル彼女だったのである。


俺は、思い出した。今日は、クリスマスくらい彼女がいないという寂しい現実を忘れようと、妄想を膨らませていたのである。そして成美の最後の「2時間で交通費と指名料込みで2万円になります。」という一言で現実に引き戻された。


「ああ、そうか……」


俺は静かに笑った。「一番だった」という俺の勝手な評価は、レンタル彼女の中でという意味だった。


 財布から2万円を出し、彼女の前に置く。成美は、一瞬もためらわず、その紙幣をクラッチバッグに滑り込ませた。


「ありがとうございました、お客様。またのご利用をお待ちしております」そう成美から告げられ、俺は、偽りの彼女へ別れを告げた。


俺が支払った2万円。それは、成美との儚い夢の代償として、俺が成美へ渡した最も冷たいクリスマスプレゼントだった。


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