事故物件で、優しい怪異に守られながら、クズに殴られてます。

芽蕗 丹花

第1話 ひなこさんによりますと─殺された母の声



「……あやちゃん、今日も生きててえらいね」


キッチンでお湯を沸かしていたら、背後から“死んだはずのひなこさん”の声がした。

殺されたのに、なぜか私を心配してくる母みたいな幽霊だ。


今朝も相変わらず、耳元でやさしく語りかけてくる。

……いや、死んでから過干渉がひどくなってない?








こどもがほしかったんです。


あいするおっとと、こどもがほしかったんです。

じぶんをあいしてくれるひとと、あいするこどもをそだてるなんてしこうのよろこびだとはおもいませんか?えがおがたえなくてもいい、つらくてないたっていいのです。そんなくぎょうをのりこえてきずながうまれ、いっしょにいきていくのがいいのです。しあわせなのです。

そんなしあわせがわたしはほしかったのです。

でも、きもちわるいわたしなんてきっとだれもすきになってくれません。でも、それでもいいのです。ゆめをみるだけならだれにもとがめられないですから。だから、わたしかみさまにおねがいしました。そしたらうんめいのひとがあらわれたのです。すきすき、だいすき、いっしょにいようね、ていっぱいいってくれました。わたしもいっぱいいいました。そして!あいするこどもができたのです。かわいいかわいいてんしです。かわいいかわいい、めにいれてもいたくない、いたくない……ないない


──いないいない……


とつぜんのことでした。

─あのひとはいなくなってしまいました。



なんでなんで?

なんで、いなくなってしまったの?なにがふまんだったの?あんなに、あんなによろこんでくれていたのに。



あのとき。

あのひとがこどもをだいてわたしに「ありがとう」といってくれたとき、

わたしはたしかにしあわせだったのです。ほんとうにほんとうにしあわせだったのです。


なのに、なんで…




あ、あ、あ、そうです、そうでした。


わたしはきもちわるいのです。


きもちわるいのです。

……みんなに、そういわれていたのです。


みるなといわれて、ごみをなげられるのです。


きらわれたのです。きらわれたのです。


あいするひとはいません、

わたしのせいです。



あれ?でも、なんで??


では、ではでは、

このこはなんなのですか?

なんでてんしがきもちわるいわたしのところにきてくれたんですか?

かみさまかみさま、どうかどうか、


あのひとがもどってきました。

でも、あのひとはあのひとのかたちをしたなにかでした。


このこは、てんしなんです。

あかちゃんはみんなみんなてんしです。

だからよわいの、かよわいの。

だから、あ、あ、やめて、あ、あ!



あのひとはあのひとだけどあのひとではなかったのです。

あかちゃんをまもらないと、まもらないと、どうしたら、どうしたらいいの?

ねぇねえねぇねぇ

かみさまかみさま、おネガいかみさま



いとしいアノひトを


こノこヲ



いきかえらセて

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