第一話 謎の招待状

FBI捜査官を辞めてからわずか4ヶ月たったある日。地元である神奈川県横浜市にある小さな事務所「雀宮探偵事務所」に一通の手紙が届いた。手紙の送り主は不明だが、封筒の端には小さくA.D.の文字が刻まれていた。


「このクソ忙しい日に一体誰からの申し出なんだか・・・」


数万人の依頼を解消するためにいちいち相手していられるかとそう思ったのだが、それでも相手の申し出を断ることは出来なかった。


「とりあえず内容だけでも見てみるか・・・」


封筒を開け、中身を取り出して本文を読み始める。最初は闇取引の現場に行かされるような代物が入っているかもしれないとそう睨んだのだが、蓋を開けてみると、意外にもその中身は瀟洒かつ繊細なものであった。



拝啓、雀宮熹郎様


夜分お忙しいなかこの手紙をお読みになってくださり、誠にありがとうございます。

この度、私は自邸である冥土館の次期当主として元FBI捜査官であるあなた様を

我が家の主催する謎解きイベントに招待することになりました。つきましては開催日時と開催場所のご案内と乗船場の手配を下の空欄に記載しましたのでこちら御ご覧ください。


                       グリモファイス家次期当主より




本文の下を見るとそこには開催日と開催場所、フェリーに乗船するための港の手配書が記載されていた。しかもよく見てみると開催日である11月24日は大手食品メーカーの社長の不倫調査の証拠を依頼人Aにお送りするための大事な日である。


「どうしたものか・・・」


断ろうにも断れずともいかない。だが差出人がA.D.というイニシャルだけでは到底判別できない以上、多少不審なものでもこれは受け入れるしかないと俺は思った。


「とりあえず明日の依頼内容を解決してから船に乗ろう」


そう心の中で結論付けると、事務所のソファに寝転がり、静かに目を閉じた。



日本 11月24日午前10時25分 神奈川県横浜市妙祭区 雀宮探偵事務所にて


「これでよし」


黒のスーツを身に纏い、首元でネクタイを締める。運よく今日は不倫相手である秘書とのツーショット写真が撮れたため、依頼人との面会も手早く済ませることができたためか、主催者の指定した予定時刻には間に合いそうだ。


「いってきます。お義父さん」


亡くなった父の遺影に会釈をし、事務所のドアに手をかけ外に出る。備え付けの階段を降りると久里浜港のある横須賀市へ静かに歩きだした。


この時間帯は人気もなく車の通りも少ないこともあってか、曇り空にに反して過ごしやすく、軽い散歩に適している道だ。もっとも今回はグリモファイス家の次期当主という馬の骨もない輩に呼び出されたものだから何が起こるのかもまったく予想できていなかった。


横浜駅に到着し、改札口に切符を入れると、東京行きの電車に乗り込んだ。



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