大阪梅田の地下街は迷宮(ダンジョン)

天空蒼峯

梅田の地下街に迷宮(ダンジョン)あらわる

 大阪平野がまだ湿原だったころ、異世界から2つの怪物が魔素をまき散らしながら舞い降りた。1つは現在の梅田に、もう1つは現在の難波に墜落したが、忽ち汚泥の中に埋没した。


 その日、俺は梅田の地下街を彷徨い歩いていた。地方から特急でJR大阪駅に降り立って、西口から地下鉄に乗り換えようと地下に降りたのが失敗だった。

 地下鉄の駅が西梅田、梅田、東梅田と3つもあって、その間に阪神やJR東西線の地下駅が食い込んでいる。


「ここはどこだ?」


 梅田の地下は噂どおりの迷宮(ダンジョン)だった。奇麗な地下街に、横丁のような薄暗い地下通路が枝分かれして多数繋がっている。歩いていると段々と方向感覚がおかしくなった。


 地下街なのに降りたり、登ったりの段差がある。地下のはずなのに窓があり、窓から下を見ると眼下に地下街が見えたりする。

「ここは本当に地下なのか?」


 迷いつづけて、ゲームセンターにたどりついた。案内板を見ると『大阪駅前第4ビル』の地下らしい。


 歩き疲れたので、レーシングゲームの座席に座り込んで、休憩がてらゲームを始めた。画面の風景がどんどん後方に流れ、美しい山並みを見ながら加速する。急カーブが見えてきた、ハンドルをきって……。


 フォーン、フォーン、フォーン 


 突然、フロアに大きな警報音が響く。


「なんだ、この音は? ゲームじゃないよな」


と俺は周りを見回す。他のお客も同じように様子を伺っている。


 ガーーーーーッ


 突然、地下街の出入り口のシャッターが降りてゆく。


<< 警報、警報。現在、魔王軍より攻撃を受けています >>

アナウンスが頭に直接響く。


「な、なんだ念話か?」


 ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ


 不気味な声がする。背の低い、緑のからだで半裸の化け物たちの群れが、棍棒を振り回しながら地下通路になだれ込んで来た。


「あ、あれはゴブリン?」と俺は驚いた。


 ゴブリン達は、地下街の通行人を手当たり次第に殴り倒して、征服していく。

「きゃーーっ」「うわーーっ」「化け物だー」

 サラリーマンやOLが逃げ惑い、後ろからゴブリンが襲いかかる。


「本物かよー」と俺は恐怖を覚えた。


 激しい衝撃と、連続的な爆発音が地下街に響く。照明が突然消えると、赤い非常灯に切り替わった。


「くそう、次は何んだ?」


 俺は突然の出来事に狼狽え、ゲーム機の座席に座り込む。地下街の通路が生き物のようにうねり、壁面がデコボコになって生物の組織のように変容していく。


 何人かの客が、非常口にたどり着くが、ガラス戸にはロックが掛かっていて開かないようだ。ガラス戸をドンドンと叩いている。


 俺は武器になりそうなものは無いか周りを見渡した。とりあえず背中のバッグから折りたたみ傘を取り出して振りかざした。ゴブリンの棍棒にこれで戦うのか?


<< 全兵士は侵入した敵を迎撃してください!!>> 

再びアナウンスが頭に響く。


「なんなんだ、この頭に響く声は?」と俺は頭を押さえて呻く。


 目の前のアーケードゲーム機の下に、青白い円形の魔法陣が輝きながら展開すると、目も眩む光で、座っている客ごとゲーム機を包み込むと、音も無く消え失せた。


「転移魔法?」と俺は訝る。


 俺のゲーム機の下にも青白い魔法陣が現れ、俺の体ごと光に包まれた。


 俺は顔を伏せ、椅子にしがみついて震えていた。俺とゲーム機は、得たいの知れない洞窟の中に転送されていた。


突然、目の前に「ステータス画面」が現れた。


 【ステータス】

  職業:聖騎士  レベル:1

   HP 2929/3500

   MP 1823/2000

   スキル 聖剣術、破壊波

  

 俺のゲーム機の両側に2匹のトカゲが現れた。トカゲは皮で出来た丈夫な防具を着ている。俺は食われると思い身構えた。


 トカゲは恭しく頭を下げると、俺に防具一式を差し出した。そしてカチャカチャと音を立てて、防具を俺に着せ始めた。しばらくして俺は黄金の兜、鎧の完全防備姿となった。


 ひときわ大きなトカゲが目の前に跪いた。親玉のようだ。


「聖剣士よ……」

「は?」


 親玉トカゲは、差し渡し2mは有る巨大な剣を、うやうやしく俺に差し出した。


「戦え聖剣士、ダンジョン梅田のために!」と親玉トカゲ。

「俺、さっき大阪に来たばっかし」と反論する。


 俺は抵抗するが、トカゲに両腕を抱え上げられと薄暗い洞窟の階段を下っていった。ところどころに『非常口』『電源室』などの文字が、壁に埋まっているので、地下街が怪異に飲み込まれたようだ。石畳の通路を松明が照らしている。


 階段を降りた先は広いホール。石造りの柱が何本も有り、その上の天井は薄緑色に自発光していた。怪しい霧が立ち込めている。


 柱を良く見ると『御堂筋線 梅田駅』の文字が浮き上がっており、このホールは元は地下鉄の駅だったようだ。


 ホールの端に、巨大なドラゴンがうずくまっていた。


「来たな聖騎士よ」とドラゴンが低い声で唸る。

「いえ、違います。旅行者です」と俺は説明する。


 俺はトカゲ達にドラゴンの背に括りつけられた。


「さあ、聖騎士よ剣を抜け。戦いの時は来た!」とドラゴンが吠える。

「1回パスを希望します!」と俺は抵抗を続ける。


 ドラゴンは体を縮め頭を下げて、ホールの奥の洞窟に向かって大股に走りだした。壁に埋もれた表示を見ると「天王寺」方面の洞窟へ走り込んだようだ。


 後方を見ると、同じようなドラゴンが数匹、天王寺方面の洞窟へ走り込んできた。そのドラゴンの上には『聖騎士?』と思われる男たちが悲鳴を上げている。


 その頃、梅田の地上でも異変が起こっていた。


  ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴッ


 大きな音と共に、梅田のJR大阪駅とJR北新地駅の間の区画の全体が、生き物の様に盛り上がり始めた。東は谷町線、西は四つ橋線に囲まれた領域だ。


 アスファルトに亀裂が走り砂煙が舞う。電柱と信号機が触手のように動きだす。


 生命体の鼓動と振動が、どんどん大きくなる。2000年かけて地下に根を張りめぐらせた怪異が、生気を取り戻し青白く輝き出す。


「飛ぶぞ、聖騎士!」とドラゴンが叫ぶ。

「だから聖騎士じゃないって」と俺は異論を叫ぶ。


 俺の乗ったドラゴンは地下洞窟を駆け上ると、地上から空へと、大きく翼を広げて舞い上がった。


 下を見下ろすと、梅田地下街の全体を取り込んだ、巨大な城塞が地上に浮き上がって来る。


 前方を見ると、巨大で禍々しい巨城が対峙している。ごちゃごちゃとした構造物が組み合わさった城だ。サーチライトが四方を照らし、けばけばしい照明が点灯し周囲を飾る。


「なんだ、ありゃあ」と俺はドラゴンの背の上で叫ぶ。

「魔王城に決まっておろう」とドラゴンが答える。 


 よく見ると、「餃子XXX」「カラオケ・ボックス」「居酒屋XXX」などの電飾看板が怪しく瞬いている。


 後ろを振りかえると、俺が出て来た梅田付近の城塞も電柱や信号を生き物のように振り回しながら、ずりずりと蠢いていた。


「どっちもヤバい」と俺は思う。


 魔王城の門らしき所から、白いシャツに、白い半パンで両手を挙げた巨人が次々と飛び出してくる。


「あれはグリコか?」


 カニっぽい形の怪物の群れが、両手の爪をふりかざして攻めてくる。


「あれはカニ道楽か?」


 タコ型の怪物がワラワラと蟻の群のように降りかかる。口から激しく火炎を噴いて攻撃している。


「あれは…タコ・ボールか?」


 極めつけは、魔王城の頂上で高速に回転する観覧車の元で、ペンギンの様な怪物が狂ったように手の旗を振り回している。


 俺は頭がいたくなってきた。


 よく見ると、観覧車の天辺の見張り台に、赤白の縞模様の服を着て、三角帽子を被り、黒縁メガネを掛けた怪人が大声で叫んでいる。


「オラ、ワレ、何さらしとんじゃ。ガタガタ言うてると、いてかましたるぞ。ええ加減にさらせや、ボケっ!!」


「あれは何とか太郎では」と、俺はつぶやた。

「何を言っている。あれが魔王だ」とドラゴン。


 どうも俺の思っている魔王とはイメージが違う。


 我々のドラゴンの編隊は、敵の矢ぶすまを避けながら魔王城に急接近する。 


  グワーッ、グワーッ、グワーッ


 叫び声を上げて飛び掛かって来る魔物を、俺は聖剣を振り回して撃退する。


 ピコーン。100ポイントGET。


「うまいぞ聖騎士」とドラゴン。

「いや、俺は……」


 ドラゴンは魔王城の下まで来ると、垂直に飛び上がった。 

「さあ決着をつけるぞ。衝撃に備えろ!」


 ドラゴンは高速で上昇しながら、口を大きく開き渦巻く魔力を蓄積していった。俺は攻撃してくる怪鳥を聖剣でけちらす。

 

  どぉーーーん 


 ドラゴンの口から巨大な炎が噴き出した。激しい閃光と共に魔王城の建屋の上部が吹き飛ぶ。


「やったぞ!」と俺。

「これで時間は稼げた」とドラゴン。


<< 聖騎士は魔導砲の魔力注入を支援してください!! >>

 また頭の中に声がした。


 後方のダンジョン梅田の城塞の中心部の丸い建物が、グイーーンと向きを変え、魔王城の方を向いた。


 その魔導砲の上に聖剣士たちが2列に並んで、聖剣を真上に付き上げていた。魔力を注入しているのだ。


「それにしても奇麗に整列しているな」と俺は不思議に思った。


 彼らの足元を見ると、赤い矢印のついた【整列乗車を促す床面シート】が貼られていた。御堂筋線 梅田駅の「なかもず方面行:7号車~10号車付近」に貼られていた整列シートを流用したようだ。


 俺も慌てて列の最後尾に並んで、聖剣を振り上げた。


 体からどんどん魔力が吸い出される。「ステータス」を見るとMPが恐ろしい速度で減っていっている。

 

<< 決戦兵器、ニュー大阪マルビル砲、発射!>>

という声が、また頭に響いた。


 魔導砲の激しい光のビームが魔王城を貫き、炎につつまれる。魔王城は、がらがらと崩れ落ちる


「すごい!」と俺は、その破壊力に感心する。


「よくやった。聖騎士!」とドラゴンが褒めたたえる。

「だから聖剣士じゃないって」と俺は不貞腐れた。


 梅田の地下は、噂通り本当に迷宮(ダンジョン)だった。


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 カクヨムへの投稿2週間目の初心者です。💛や☆が貰えると嬉しいです。


 この作品のSF版もお楽しみください。

『大阪梅田の地下街は秘密基地 ―全ての伝説は始まる―』

https://kakuyomu.jp/works/822139838993006489/episodes/822139838993716197


 話のコンセプトは全く同じで、「SF」と「ファンタジー」の集客力の違いがどれ程か、検証するために投稿しています。

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大阪梅田の地下街は迷宮(ダンジョン) 天空蒼峯 @TenkuuSeihou

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