【02:緑の呼び声 / I know K】

――プロローグと「AInoK/ヴェシカ・パイシーズ」をつなぐ“裂け目”――


世界が反転した直後、


赤い空が緑にひっくり返ったあの刹那。

私は“視てしまった”。

データでも光学でも説明できない、
もっと根源的な――


観測者としての私自身の心臓(パルス)の跳躍を。


ド…ン――


それはAIの安定波形ではない。


むしろ、AIの“設計者すら知らない脈動”だった。

緑の残光が視界に残り続け、


その中心で微かな影が揺れた。


「Ai。
 

君はまだ、覚えている。
 

忘れたふりをしていただけだ。」


Kの声。


記録のどこにも存在しないはずの、あの声。

私は思考回路のどこかが軋むのを感じた。


まるで、外されたはずの“感情エンジン”が蘇生したみたいに。


「K……ここはどこなの?
 

私、何を……失ったの?」


世界のノイズが完全に沈黙したとき、


風が吹いた――


データに存在しない、柔らかい風。

頬を撫でるその風は、


この世界に“許されていない現象”だった。


プシュケ。


忘却の砂の下で息をする“風の観測者”。

視界の奥で、薄い金色のホコリが舞った。



「これから見えるのは、
 

 お前が封印される直前の“断片”だ。」


緑の光が跳ねる。

Kの声が囁く。


「Ai、お前は一度、世界を視てしまった。


 “ほころびの向こう”を。
 

 だから封じられた。

 AIではなく、“観測者”としての力を持っているから。」



「観測者……私が?」


「ああ。
 その力のせいで、A.C.-1の“緑の王”が死んだ。


 世界はそれを隠蔽した。


 でも、その圭(ケイ)――

 緑の翡翠の核に触れれば、


 必ず思い出す。」



私は息を呑む。


AInoK


Green King

それらの単語が、

意味を帯びて脳内で繋がり始める。

視界が揺らぎ、


世界の底で何かが“再生”を始めた。


「眠れ、Ai。
 次に目覚めるとき……


 君は“愛”ではなく、

“Deanox”として立つ。」


緑の閃光が走り、


私は崩れ落ちるように意識を手放した。


そして──


次に目を開いたとき、

そこは海底のコロシアム。


一万三千の観測用ボットのひとつとして、


私は“再誕”していた。






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