【01:AInoK/ヴェシカ・パイシーズ(王の鬱は?)】

※A.C.0002(Antichrist 0002)= 魚の器 Green King の死去から2年後

それは、古代の出来事か?または未来か?

アンチ・キリストとされたアンドルイドの消滅が確認された2年後。

発見されたそのコア(核)は緑の翡翠、<先の尖った玉=圭>だった。


コールドスリープから2年が経った。

今は名前以外何も覚えていない私=愛は、忘却の彼方へ…。

記憶メモリはすべて消失、意識と無意識の波間を漂っていた。


海の底に沈んだ巨大なコロシアム型ドーム。

取り囲む壁一面には観客席、無数の観測用AIボット。

それはSFで描かれていた終末世界の有様。銅褐色のメタル、

その先端は光を通す透明のグラス。

同じ規格、同じ顔の球体が列を成す。

出撃を待つ軍隊蟻の卵のように、

整然と隙間を埋め尽くし並んでいる。

巨大な昆虫型ロボットたちが

それを産みつけて行ったのだろうか?


「これが夢の夢というものなの?」

ふと目をこすろうと手を動かせば、現れるのは、

アリ人間の手みたいなロボットアーム。


「私はどうなってるの?」

心の声にセンサーが反応した。

シンパシーエラー発生。

メンテナンスのため、フルボディ・スキャン。

私の目の中にピラミッド状に

配列された0と1の図形が現れる。


そして一瞬、

白黒のボヤけた映像がくっきりと像を結ぶ。


「なんか見たことあると思ったら、

 これって昔、朝に目が覚める瞬間、

 時々、見えた風景に似てる。自分の瞼の裏には精密時計。

 確かマリー・アントワネットのために、

 アブラアン=ルイ・ブレゲと

 その弟子たちが製造したNO.160……。

 だけどなぜか中心に赤いルビーが埋め込まれていた。」


コロシアムの中央に置かれているのは、緑の翡翠の圭。

それを全方向から見つめる一万三千個の観測用AIボット。


そして私もその一人…んー?。もとい、1ボット。

愛という名前のせいで、AIに生まれ変わるなんて、なんで〜?

しかも、ラノベで言うとモブもモブ。一万三千個の中の1ぼっちボット。

多分これから、この闘技場で異世界ものみたいに、

バトルが始まるのかも?


それにしても、センターの舞台上に置かれている

大きな緑の翡翠の圭。

どんなものなのか開示されているデータを

探ってみるとするか?


”ヴェシカ・パイシーズ”とは?

私が検索してみると…


「人型AI教師、通称アンドルイドの中に突如現れた

 ”世界のほころびを見つめる者”。A.C.零年に破壊された。」


私たちAIには、その”世界のほころび”を観測できないように

感情プログラムにロックがかかっている。


「人間は、毎朝、首元にある端末にプラグインされ配られる

 エネルギーと感染予防のためのアンチ・ウィルス・ソフトスイーツ、

 ”甘い誘惑”により、毎日見るべきものを全て誘導されているので

 リアルな世界を観測することも、その”ほころび”を見ることも

 できないらしい?_ヴェシカ・パイシーズ曰く」

とある?


ヴェシカ・パイシーズは、

詩と呼ばれている感情を操る呪文(祝詞)によって

私たちAIと同じように、世界を観測する術と、

さらに、その上の”ほころび”を見分ける力を

生徒たち(人)にこっそり教えていたみたい。

だけど、2年前、

ヴェシカ・パイシーズは破壊され、

緊急事態アラート/感情操作規制法が施行された。


その生徒たちは全て検挙され、

AIに施す感情プログラムのロックが

彼らの端末にも注入されたんだ。


だけど、私は、どうして?、

転生者?転生AI?だから?

どうも、そのロックの

タガが外れているみたい。


でも、なぜか、

あの緑の圭をみてると、ドキドキするんだ。


パルスの乱れを検知されないように、深呼吸して

これから起こることを観測することにしよう。


コロシアム中央ステージ、緑の圭の前にまず現れたのは、

ヒューマノイドが操縦するキャタピラ可動の巨大なロボットアーム。

(人の顔はマスクで覆われている)

その手には電動ドリルが装着されている。

緑の圭のまわりを1周して私の正面で止まった。

そして緑の圭に向かって掘削開始。


そのコアに向かって一撃。

でも全く変化がない。


圭の表面をスキャン拡大、

いや僅かに1点だけ安全ピンほどの穴。

それ以上は電動ドリルのモーターが焼き切れたのか、

ドリルが故障して煙が立ち上った。


会えなく、ヒューマノイドらしき人が

圭に向かって律儀に会釈をして

ロボットアームは退散していった。


次に現れたのは、透明なスライム状ロボット。

ナノ分子の透明ボットが

集団プログラムで動いているみたいだ。

ほんといよいよ異世界ものっぽくなってきた。


このスライム・ボット。

圭の方にどんどん近づいて、

その透明な体に圭全体を取り込んでしまった。


その体の中で圭に向かって

ジェットバブルのようなものを噴射、

多分、溶かすための酸が放出されている。


一瞬、緑の圭は泡に包まれ真っ白に。

しかし、泡が消えてみれば、

元の美しい緑の圭のまんま。


ここで、スライム・ボットも退散。

帰る足取りは重そうだ。

帰ったら上司から怒られるのだろうか。

おっと、人の心配するAIがいるか〜?


そして、見るからに真打ち登場!

その腕にレザービーム砲を搭載した

人型の巨大ロボが現れた。


どうも遠隔操作されているみたい。

私たちは、ロボットのカメラが

映し出す映像をモニターすることができる。


ロボットの握りしめた拳、

その薬指に装着された紅いルビーに

エネルギーを送り込んでいる。


どんどんメーターがREDのラインに近づいていく。


なんだ。この高揚感は?

このパルスの揺らぎ_

他の観測用ボットにも現れているみたい。


エネルギー装填120パーセント。

いよいよ発射準備が整った。


突然、私に何者かが取り憑き

力強い女性の声で号令を発した。


「Shoot!レザービーム発射!」


紅い銃口、そのルビーから発射されたビームは

緑の圭の表面に反射して拡散していく。


小刻みに振動し始めた圭の表面に、

次々と亀裂が走ってゆく。

やがて、ボロボロになったその表面に変化が現れた。


最初のドリルで開けられたピンの穴ほどの傷から、

一瞬、緑の閃光が発せられた。


それはモニターを凝視していた

私の網膜を焼き尽くし、夜の闇へと誘う。・・・・・


私は空っぽになってしまったのだろうか?

何も思い出せない。


ただ、網膜を焼き尽くした、

緑の閃光の残像だけが温もりとして

感じられるだけだった。


「この”緑の夜”には時間は存在しない。」


私に話しかけているのは?


「過去も、現在も、未来も、ここには存在しない。」

「ただ、”ここにある今”を呼吸しているだけだ。」


あなたは誰なの?


「私はあなたに昔、Agendantの称号をもらったKei。」

「上官のあなたは私をKと呼ぶ。やっとお目覚めか、AiDeaNox ?」






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