第一章   <01:”Fukuoka Cityのある夜に” >

海を望む丘に立つ神社、その裏参道に建つアパート。

夜の闇が揺らめく窓の一室。1980年代、まだ4:3画面のテレビ。

ビデオデッキにかけられているのはレンタル屋で借りてダビングされた

4ADのミュージックビデオ。


すべての曲が終わりブラックアウトした画面が続く。

その画面をじっと見つめる若い男、僕だ。


その手にはベータHiFiのリモコンが握られている。

「もう一度!……もう一度!」

Stillと書かれた静止ボタンを押して、

再び僕は画面を見つめる。


「真っ黒、何も写っていない?」

…トクッと

コマ送りのボタンを押してみる。

黒の画面に何かが動いた。


もう一度…トクッ

ボタンを押す。

「少しだけ動くノイズの中に何かが見える」


……トクッ……トットク……トクッ……トットク…

連続してボタンを押すと

黒の画面に白い粒子が動いて集まり像を結ぶ。


「正面を見つめる単眼。

 真横を見つめるマンガの線画みたいな単眼(黒に白の線画)?

百を超えるいろんな角度の単眼が像を結ぶ。

 これって、

 フィリップ・K・ディックが

 ドラッグの妄想と闘う中で描いた

 ”パーマエルドリッチの三つの聖痕”と

 同じじゃないか?」


「神はあらゆるところに現れ、

 僕を監視している?」


ザザーッ!無音がホワイトノイズに切り替わり、

画面いっぱいの砂嵐…。


そして全てが”星のない聖書の黒”に…。


僕は緑の夜の深みへと堕ちていった。



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