第37話 ハンドブレイカー
鍛冶屋の一件から数日が過ぎたとある朝、聞いたことのある大きな声が玄関先から聞こえる。
「おい、ハーガンだ!いるか?しかしここは何時来ても臭えな!」
文句を言いながら訪ねてきたのは鍛冶屋の頭領、ハーガンだった。
「ん?何だ珍しい。お前からここに訪ねてくるなんて。」
「おはようございます!ハーガンさん!」
僕と先生は朝の思わぬ来客に驚きつつも迎え入れる。
だが更に驚いたのたのはハーガンさんが手に持っていたものだった。
「ガハハ!出来たぞ!新しい、ニクスの相棒が!」
なんとあれからたったの数日しか経っていないのに、もうあの「下手な絵」と言われてしまった僕が考え出した【ハンドブレイカー】が出来上がったらしい。
「もう出来上がったのか!?まだたったの数日だぞ!?」
先生も驚くほどの仕上がり速度だったらしい。
「いや、あのアイデアが思いの外面白くてな。久しぶりに気力が湧き出て若返った気持ちで打ってたらあっという間にな。」
そう言いながらニッ!と笑いながら僕にその出来上がったというハンドブレイカーを持たせてくれる。
鋼を使っており、形も変わっていることから重量が思った以上にある。
「鞘から抜いてみてもいいですか?」
僕は恐る恐る聞くが、「あったりめえよ!」とハーガンさんに促される。
スラッ
そこには僕が今まで見てきたどの刃物よりも、心の底から美しいと思えるものがそこにあった。
「はぁ・・・。」と思わず感嘆のため息が漏れる。
先生も「ほお・・・。」とマジマジとハンドブレイカーを見ていた。
「で、どうだ?持った感じは。」
ハーガンさんもかなり自信があるようで腕を組みながら僕の様子を伺う。
「すごい、初めて持ったのに僕の体の一部みたいに馴染んでる気がします。」
そう、完成形を初めて持ったのにも関わらず以前から自分の体の一部だったかのような不思議な感覚に陥っていた。
「重さ、長さ、重心、握り心地なんかはどうだ?」
先生からも確認を促されたので、安全な場所で素振りしてみることにした。
ブンッ!
ブンッ!
何回か振ってみたが、金属武器特有の重さは感じる。
「試し切りしてもいいですか?」
僕は先生に確認すると、「これを切って見ろ」と少し太めな木を目標にしろと言われる。
「行きます。」
ザスッ!
「え!?」
かなり太めな木だったのに関わらずナタで薪を割るより遥かに抵抗を感じること無く切れた。
「いい出来だな。」
先生も想像以上だと言わんばかりに感心していた。
「俺も出来上がった時は驚いたよ。会心の出来だったからな。」
作った張本人のハーガンさんはこの剣が出来上がった時にそう感じたらしい。
「ニクス、その剣はお前のものだ。今後はいついかなる時もその剣を帯剣するように。」
「その剣が、ニクスの道を切り開くための術になることを、心から祈っている。」
先生とハーガンさんから正式にハンドブレイカーを受け取ることとなる。
「ありがとうございます!今後も日々精進していきます!」
僕は出来上がったばかりの新しい相棒【ハンドブレイカー】を胸に抱き、頭を下げる。
「ところでなんで【ハンドブレイカー】なんだ?」
ハーガンさんが尋ねてきたのでこう答えた。
「主に相手の武器と武器を持っている手を壊す用途で考えたのでハンドブレイカーです!」
元気よく答える僕に先生とハーガンさはげんなりとした表情で「えげつないな」と言っていた。
「ああ、そうだ。」
そう言いながらハーガンさんはもう一つの荷物も僕にくれる。
「ハンドブレイカーの訓練用に失敗した剣の刃を潰して同じ様な形で仕上げておいた。良かったら使ってくれ。」
そう言いながら訓練用のハンドブレイカーも合わせて貰うことが出来た。
「ほう、ならば丁度いいな。今日からの格闘訓練ではこれを使ってハンドブレイカーに慣れるようにしろ。」
先生からの言葉に「わかりました!」といつも以上の気合を入れ答える。
ハーガンさんは僕にハンドブレイカーを渡し、納得すると帰っていく。
食事にも誘ったが、今は鍛冶場が片付けられていないため、今度の週末に食べに来るとのことだった。
これは腕によりをかけて作らねば!
昼食後、早速ハンドブレイカーを使った訓練をいつもと違い、まずは形や重さに慣れることから始めるために素振りなどで確認を行った後に組手となる。
先生も初めて相手をすることになる特殊な武器を前にかなり緊張した様子が見受けられる。
そしていざ打ち合いが始まると、やはり武器としての利はかなり高いようで絡め手として先生の武器を上手く捌けたと思った瞬間、先生は武器から手を離し一気に姿勢を低くしたかと思うと足払いをもろに受けてしまう。
立て直そうとするも片手にはハンドブレイカーがあるため上手く立て直すことが出来ず、武器を持ち直した先生に一撃を入れられ、そこで今日の組手は終了する。
「正直今日はいつもと獲物が違うので戦法を変えざるを得なかったが、まだまだだな。」
悔しさでいっぱいだったが、実践ならば死んでいたところだ。
一刻も早くこの新しい武器、ハンドブレイカーに慣れ、戦法を考え更に精進したいと思った一日となった。
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