第32話 殺す事の意味【番外編】
「村に堂々と盗賊が押し入っただと?」
俺は取引先の素材屋から近隣の村で発生したという白昼堂々と村を襲った盗賊団が現れたという話に驚愕していた。
「ええ、アッシェの旦那。被害も相当なものらしいですぜ。」
「そうか・・・。なら、しばらくは荒れるかもしれないな。」
何故ならば、通常の盗賊団は襲ったとしても小さなキャラバン程度でそんなに人的被害や金銭的被害も大きくはないが、一つの村となると話は別だ。
村は言うなれば国の重要な資源庫であり税収入の源であり、国の所有物だからだ。
なので村に対し直接的な被害をもたらせば、それは国に対し牙を向いたのと同義となり、即時対象の盗賊団は全員賞金首となり、捕まれば問答無用で死罪になる。
通常の盗賊団は悪党は悪党だが、流石に命は惜しい。
そこまでの強引なことは行わないはずであった。
それが通常の認識だ。
何かがおかしい。
そう思わざるを得ない状況だと判断した俺は即座に行動を開始する。
場所が場所だけに次はこちらが標的になる可能性があったからだ。
丁度今は運がいいのか悪いのか、ニクスが週末の休息で村の教会に滞在している。
「この際徹底的にあぶり出して、場合によっては冒険者か騎士団と合流して殲滅も考えなければな。」
そうと決まればまずは状況の整理のために被害にあったという村へ向かう。
一般人であれば馬車馬等を利用するのだろうが、この程度の距離ならばそんなもの必要はない。
いざ現地に到着すると、そこには既にとある冒険者のパーティが居た。
等級は銅級で4人のパーティと3人のパーティの2パーティが調査を行っている。
合同パーティということは被害は相当なものであったと容易に推察された。
近くに行き話しかけると、「誰だ!?」と即時抜剣されこちらへ切り込まれかねない状態だったため、自分の身分を示すべく、こう言う時のために引退しても携帯はしていた、冒険者時代の銀級の身分証を首から下げていた。
抜剣し警戒をしていたパーティの内の一人がその身分証に気がついたようで、「待て!」と静止をかけ、身分を問われたので、元銀級の『灰被り』だと言うことを伝える。
こういう時に二つ名というのは便利で即座にその2つのパーティは自分が何者かを理解したようで、状況を教えてくれた。
曰く、対象となっている盗賊団は20名以下の小中規模の盗賊団であるとのこと。
また、数名はなんとか捕らえたとのことであったが、理性が飛んでいるような有り様でまるで会話にならず情報が引き出せない様子であったとのこと。
どうやら非常に面倒なことに薬物か、精神汚染を引き起こす魔法にかかっている可能性が考えられた。
だが、不思議なことに目的地は同じ方を向いていたとのことであり、一種の団体行動は継続しているようだった。
「ふむ・・・。この中に『
2パーティにそう聞くと一人が手を上げたのでその人物に、この地点からどこへ向かったのか推察できるか聞いた所、恐らく一度拠点に引き返した可能性があるということがわかる。
15名程度なら俺がサポートに入ればこの人数のパーティならば銅級でも対処できる可能性が高いと考え、
銅級の2パーティだけならば不安だったが、元とは言え銀級の二つ名持ちの自分がいるならば心強いとその提案を飲んでくれた。
そこからは事前の打ち合わせ通り、先に3人のパーティが先行し、俺を含む4人パーティは距離をおいたところで観察をしながら合図を待つ。
時は既に日付をまたぎ、日が登る少し前のことだった。
先行していたパーティより合図があり、早速合流するとそこには8人の盗賊たちが、意識が混濁した様子で拠点らしき場所に居た。
人数にして半分ほどは既にどこかへ移動している様子であった。
「一人残らず捕らえろと言いたいがこの状態では捕縛は難しいかもしれん。場合によっては構わん、殺せ。」
そう俺が声を掛けると一斉に2パーティは行動を開始する。
やはり意識が薬物または魔法により混濁しているため、通常のような戦闘は行えない。
何しろ痛みに対し強い耐性があるからだ。
そのため、事前に打ち合わせた通り、捕縛は無理だと悟ったパーティメンバー達は即座に対象を捕縛から確殺に切り替え対処する。
一瞬にしてその場は血の海となり、8人の盗賊だった者たちの遺体が転がっていた。
異変がないことを確認し、パーティは警戒と調査で分担することになる。
俺は調査側に入り、遺体の状態や所有物を探す。
魔法による精神汚染の場合、遺体にマナの痕跡が残っている場合があるが今回どの遺体からもそれを感じさせることはない。
更に確定的だったのは、遺体の一部が使用したと思われる薬物が入った小さなガラス瓶を持っていた。
丁重に扱うよう注意を促し、普段薬物や毒物を扱う俺が直接鑑定を行う。
荷物鞄から取り出したのは1枚の羊皮紙であり、これは魔法が封じられている『
普段は非常に高価な
鑑定結果はやはり麻薬に近い薬物であり、効果は物欲と性欲、そして破壊欲を異常なほど高めるという非常に危険な代物だった。
その内容に近頃都市部付近で似たような麻薬が出回りだしていると2パーティのメンバー達が言っていたのでそれで確定だろうと思われた。
その薬物を使用しているはずのもう半分近い盗賊たちが居ないということは、次の獲物を物色しに行った可能性が極めて高いことを示唆していた。
それならばと4人パーティはここから北にある村へ、そしてもう1パーティは俺とともにニクスがいる教会のある村へ引き返すことになる。
「頼むから、馬鹿な真似しないでいてくれよ!」
そう願うも、やはり状況は最悪だった。村から悲鳴が聞こえ、血の匂いがしている。
「くそ!やはりここだったか!!」
そう言いながら3人パーティに散開して、先ほどと同じ様に見つけ次第対処することを伝え、俺は一目散に教会付近へ急ぐことにする。
眼の前に現れたのは魔法を行使しようとしている盗賊が一人と、その先にはニクスが住民たちを庇おうと矢面に立っている姿だった。
刹那、盗賊より放たれた土属性魔法の【
「間に合え!」
【
普段あまり使わない魔法であり若干の不安要素はあったが無事に魔法を相殺することに成功する。
【
ニクスに近づき状況を把握すると、なんと近くに素手で殴り倒されたと思われる盗賊が3人転がっているのを目視で確認する。
こいつは驚いた、と内心で思う。
今回の薬物化の影響にある者は痛覚に耐性が見られていたがニクスは正確に人体急所を素手で捉え、しかもとても8才の子どもがやったとは思えない程の膂力でねじ伏せたと思われたからだ。
ニクスの目の前まで移動し、一瞬の内にここは安全だと確認する。
「説教は後だ、阿呆。」
ニクスにそう伝え、他に散っていると思われる盗賊めがけ再度最大速度で戻るも途中で方方から、奇声にも似た断末魔が聞こえてきたことから全員仕留めただろうということが確認できた。
残存勢力を確認すべく、3人パーティと合流するが特にそれらしきものは見当たらなかったため、自分はニクスのもとへ行くと言い残し3人パーティより離脱する。
ニクスが必死に死にかけている人物へ応急手当をしているのが確認できた。
「この二人はまだ生きています。特にこちらの人はかなりの深手です。すぐに治療しなければ持ちません。」
そう言い俺にその場を任せると言った表情をしていたため「・・・わかった。」と伝えるとニクスは被害者の一人であろう少女を抱きかかえながら教会へと全速力で移動していた。
俺は託されたこの人物が既に致命傷を負っており、助からないことを知っていた。
その名も知らぬ人物に対し、膝をつき語りかける。
「残念だがお前はもう助からない。良ければ苦痛から解放させるがどうする?」
そう聞くと、その人物は涙を流しながら「頼みます。」と聞こえるかどうかの小さな声を発したのを確かに聞いた。
俺は「すまない。」と言いながらその人物を懐から出した短剣、『
そうして俺は苦痛から解き放った人物を横に「ふー・・・」と大きく息を吐き、これで終わったとようやく安堵する。
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