第27話 カーバンクル
嵐のような夜が過ぎ去り、早速僕達はこの都市にある冒険者ギルドへと朝一番で行くことになる。
「朝一番の冒険者ギルドは戦争だって何かで読んだ気がするんですが大丈夫なんですか?」
いつだったかは覚えていないが過去に読んだ本を思い出して先生に聞いてみた。
「お前、本当に変な知識があるな。まあ、それについては大丈夫だ。安心して良い。」
なにやら先生には考えがあるようだったので安心してついていく。
「ここだ。」と案内された冒険者ギルドは明らかに村にあるような簡易なものとは比べ物にならないような規模感であり圧倒されてしまう。
「ごくりっ」
「さっさと行くぞ。」
そう言うと先生はそそくさと冒険者ギルド内へ入ってしまったので僕とリリーも駆け足で入る。
すると早速である。まるでどこかの物語で聞いたような展開が発生した。
「おやおやぁ?ここは天下の冒険者ギルドだ!お前さんのような子連れのおっさんが来るような場所じゃないぜ?」
「おっさん?見ない顔だな?まさかこれから冒険者登録でもするつもりか?」
「なんならおっさんが依頼こなしてる間にこの可愛いチビ達の相手をしてても良いんだぜ?」
等など、見た目からして「ヒャッハー!」等と言いそうな連中が複数人絡んできた。
僕とリリーはあまりなベタな展開に色んな意味で身体を震わせる。
「はあ。俺が知らない間に随分と程度が低くなったな。」
そんな先生の嘆きが聞こえる。
「ヒャッハー!」達はというとその言葉にカチンと来たのか、先生対し明らかな敵意を向けだしていた。
その時、上に続く階段から一人の明らかに歴戦の武人と言ったような雰囲気をまとった男が降りてきる。
「やめとけ、お前ら。お前ら程度の等級じゃあ例えパーティ組んでたとしてもそいつに指一本でも触れられねえぞ。」
やたらと低い声で発せられた言葉に「ヒャッハー!」達はびくっ!と身体を震わせ、口々に「ギルマス」と言っていた。
ギルマス?・・・ギルドマスターか!
そう考えた僕は目をキラキラさせながらその人物を見る。
「なんだ?現役復帰でもするのか?」
ギルマスと思われる男は先生に向かいそう言った。
「馬鹿言うな、こんなおっさん捕まえてそんな事言うんじゃねえ。そもそも俺が来ることは少し離れた場所からでもわかってただろ。最初から下にいろ。」
先生はギルマスらしき人物に睨みをつける。
「普通のおっさんはそんな『気』は纏ってねえよ。なあ『灰被り』?」
『灰被り』という先生の二つ名が出たことで一気にギルド内がざわつく。
「は!?あの灰被りだってか!?」
「まさか!あいつの実在してたのか!?」
「目を合わせるな、灰にされるぞ!」
等など物騒なものばかりが聞こえてくる。
「そういう訳だ、お前ら。状況が理解できたらさっさと下がれ。」
ギルマスらしき人に言われた「ヒャッハー!」達はまるで捨てられた子犬のように身体をガクガクさせながら一目散に散っていく。
「まあ、わざわざお前が来たっていうんだ。何かしら相当な理由があるんだろう。こっちだ。」
そう言い僕達を2階のギルドマスター室に併設されている応接間に案内してくれる。
「本当にギルドマスターなんですね・・・。そんなすごい人と知り合いだなんて、やっぱし先生はすごいです!」
そう僕が思わず言うとギルドマスターは非常に驚いた顔をしていた。ここに来て何度目撃した顔だろう。
「はあ」と先生がため息を一つした後紹介してくれる。
「こいつはここ、冒険者ギルド『グラン=ヴァリエル』支部ギルドマスターのパウエルだ。俺の同期だから気軽に話してくれて良い。で、こっちは俺の弟子のニクスとその姉のリリーだ。」
先生から紹介してもらい頭を下げる。
「先生、ギルマスと同期だったなんてすごいです!」
そう言うとパウエルさんは面倒くさそうな顔になる。
「こいつがギルマスになるのかと思ってたら、俺に全部なすりつけて一目散に消えていったんだよ。まったく。」
何故かその光景が容易に想像できてしまった。
「で、今日の目的はその魔獣か?」
単刀直入かつ正確な質問に僕は思わず身体をびくっ!と硬直させる。
観察眼も先生並だった。
「話が早くてわかる。こいつをテイム登録したい。」
「まずは事情と状況の確認だ。嘘偽り無く包み隠さず話せ。」
そういって真剣にこちらを見つめるパウエルさんに「お前もギルマスらしくなったじゃねえか。」と先生が横槍を入れる。
パウエルさんもまた先生の良き理解者であるようだった。
「・・・。なるほど。そんな事情があったのか。もしかして2年前の緊急討伐依頼もこれに関連してるのか?」
初めての言葉が出てきた。
「2年前の緊急討伐依頼って何があったんですか?」
僕がそう聞くと、リリーが思い出したように話す。
「そういえばちょうど2年くらい前にうちの村に外出禁止令が数日出されて、その間に冒険者さんたちのパーティが凄い虎を森で狩ったとかなんとか聞いたことがある。それのことかな?」
完全に初耳だった。
「ほう、流石リリーだ。その件だよ。ニクスが丁度俺の家で訓練してる最中にはじまって終わったからな。知らなくて当然だ。」
先生からの言葉に「えーーー!僕も知りたかったです!」と言うとデコピンされそうになったのでさっと避ける。
「ほー、灰被りの一撃を避けるとは大した目の良さだ。よく訓練されてるな。」
何故かそこを褒めてくれるパウエルだった。
「で?さっきの質問だが?」とパウエルが聞き直すと「恐らくな」とだけ端的に答える先生であった。
「なるほど、こいつが原因だったのか。ある意味では安心材料になるな。」
そう言いながらパウエルはレビンを持ち上げてみた。
猫らしく縦にびろーんと伸びているレビンが「なぁーお(離せ)」と言っているがとうぜんそれは僕にしかわからない。
そのまま色々な角度でパウエルさんがレビンを見ると、少し空気が変わる。
そしてパウエルさんから青色のマナが発生したかと思うとそれは両目に収束していく。
【真贋の眼オラクルサイト】
【真贋の眼オラクルサイト】は非常に珍しい水属性魔法の一つで主に鑑定をする際に使用する魔法であった。
しばらく後
「不思議だ。魔獣であることは間違いないのに種族や状態などが一切わからない。ほとんど唯一わかるのは名前と魔法属性くらいだ。」
パウエルさんが【真贋の眼オラクルサイト】を解きながら考えているようだ。
「お前でもわからないのは予想外だった。で、この場合テイムはどうなる?」
パウエルさんの【真贋の眼オラクルサイト】なら危険度も把握できるだろうと考えていた先生だったが、その宛てすら外れたことに苦い顔をしていた。
「・・・。ニクス君はレビンの言ってることがわかるんだったよね?」
確認をされたので「はい。」と答えた。
「君はレビンが悪意を持って人を傷つけるようなことがあった場合、どうする?」
そう聞かれ思わず沈黙してしまうと「なぁーお(そんなことはしない。仮にそんな事があったなら俺を殺せ。)」とレビンが驚いことを言い放つ。
「なにかレビンが言ったんだね?なんと?」
パウエルがそう聞いてきたのでレビンが言ったままを答える。
「・・・。そうか。自分を殺せと言える魔獣か。ならば問題はないだろう。」
パウエルさんの目は決心したようだった。
「いいのか?」
先生は意外そうな顔で聞く。
「まあ、大丈夫だろう。」
軽々にパウエルさんは答え、テイム登録の準備を始める。
「だが、1個問題はある。」
作業をしながらパウエルさんが言う。
「最低限種族名がわからなければ登録出来ないんだよな。」
それを聞き、先生も「ああ・・・。」と納得したように答える。
どうしたもんか、と考えている時リリーが横から誰かからはもう忘れてしまったが、古いお話として聞いたという話に力を与える赤い宝石を持つ獣の話があったと教えてくれる。
僕も聞いたことがなかったそのお話に驚いた。
パウエルさんと先生は興味深そうに更に聞く。
「リリーちゃん、その獣の名前は覚えているかな?」
「確か、『カーバンクル』だったっけな・・・?」
その言葉にパウエルさんと先生は顔を見合わせるがやはり知らない名前であったようだ。
「だが、丁度良い。種族名が無いならそれにしてしまおう。」
そう言いながらパウエルさんは準備し終わった1枚の羊皮紙に色々書き込んでいく。
見たことがなかったそれに僕は目が釘付けになる。
「これは一種の『契約魔法』で『従魔契約の魔法』と言う。」
パウエルさんが説明してくれる。
「カーバンクル・・・っとこれでいいな。」
種族名を書き終えたパウエルさんから1本の小さなナイフを渡される。
「ここに一滴、ニクス君とレビンの血を落とすんだ。それで情報が書き込まれ登録完了となる。」
そう言われ恐る恐るナイフで指を切り血を落とし、レビンにも協力してもらい小さく傷つけ血を落とす。
すると一瞬にしてその各種情報を取り込んだ羊皮紙が青い炎に包まれ燃え上がり、そしてそれは消えた。
「これでレビンのテイム登録は終了だ。」
パウエルさんにそう言われ、初めての幻想的な光景を目の当たりにし興奮した様子でお礼を述べる。
「ありがとうございました!」
「それと、従魔になった証としてレビンには首輪のような目印になるものを首に付けておくと良い。」
パウエルさんから最後の注意点があり、了解したことを伝える。
「でも普通の首輪じゃダメそうよね。」
そうリリーが言ったことで僕はハッとする。
先生とパウエルさんが「ん?」と頭に?を浮かべているので実際に見せることにした。
「レビンの身体は何故かマナが強くなると金属がくっついちゃうんです。レビン?」
そう言ってレビンにマナを流させてみる。
「なぁーあ(仕方ない。)」
パリッ!そう音が聞こえたかと思った瞬間、僕が試しにレビンに近づけていた金属のスプーンがレビンに吸い込まれるように強くくっつく。
そしてマナを弱めるとからーんと床にスプーンが落ちた。
「そういえばこいつ、最初にあった時、なんか黒い砂にまみれてたな。単純に洗ったのかと思ってたが違ったのか?」
先生が救出時の状況を思い返していた。
「確かに黒い砂でまみれていたので洗って落としたりもしたんですが、気を抜いてレビンがマナを発すると今みたいにまたくっついちゃって最初のうちは大変だったんです。」
それを聞いたパウエルさんが提案をする。
「なら皮だけで出来てる首輪を用意すれば良い。そこらの露天でも売ってるだろう。それとそのくっつく
黒い砂だが実は思い出したことがある。ここに行ってみると良い。」
そう言われパウエルさんは1枚の地図を書いてくれる。
「なにか役に立つかもしれない。」とのことだったので、折角ならばと先生にお願いをして散策がてら行ってみることになる。
「本当にお世話になりました!」
最後に頭を下げるとパウエルさんは笑顔で見送ってくれる。
「おう。4年後お前が12才になったらまた来ると良い。冒険者登録、楽しみにしてるぞ。」
そう言い、先生パウエルさんは少し会話をした後、冒険者ギルドを離れることになる。
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