第13話 悲鳴をあげる身体【午後の部】

「じゃあ、早速午後のメニュー開始するぞ。」




先生の言葉に頭が真っ白になっていると、先生は「こっちに来い」と手招きをしている。




「午後は体幹と重心、それに筋力を鍛えるものを中心に行うからな。」




「たいかん?ですか?重心は聞いたことありますが。」




久しぶりに聞いたことがない言葉に頭に?が浮かんでいると、それを見た先生が嬉しそうにニヤけているのが目に入る。




「物知りなお前でも体幹は知らないか。まあ普通は耳にしないものだからな。重心を知ってるだけマシだがな。」




そう言うと先生が左足で片足立ちになり、目を瞑る。その状態で僕に驚くことを言う。




「いくらでも良いから、全力で俺のことを押してみろ。この状態から少しでも俺のバランスが崩れて、移動したら今日の午後のトレーニングは免除してやる。」




そう聞いた瞬間、僕は先生めがけて体当たりをする。




「おっ、お前!いきなりだな!!」




一瞬で全力の体当たりを食らった先生が面食らっているが、押せと言ったのは先生なので悪いことはしていない。


それよりも驚いたのは、僕の全力の体当たりにも関わらず先生はその場から一歩も動いていなかった。




「なんで!?」




「全くお前ってやつは・・・。」




そう先生が言っている最中にもう一度体当たりをするがやはり一歩も動じること無く、そのままの体制であった。




「ニクス、ちょっとこっち来い。」




そう言われ近寄ると、デコピンを食らう。




「痛い!!」




「これで勘弁してやる。」




どうやら不意の二発目の体当たりは怒りを買ってしまったようだ。それに先生のデコピンはかなり痛い。気をつけねば。




おでこを抑えていると先生から説明がある。




「これが体幹と重心のトレーニングの結果だ。試しに目は開けたままでいいから片足で立ってみろ。」




そう言われ片足立ちになると、「どんっ」っと右肩を押された。




「痛い!!」




どすんっと思いっきり尻餅をつき今度はお尻を抑える。




「なにするんですか!いきなりそんな強く押さなくてもいいじゃないですか!さっきの仕返しですか!?」




等とまくしたてると先生は「はぁ」とため息を付く。




「今のは全く力なんて入れてなかったぞ、この程度の力だ。」




そう言いながら座った状態の僕の右肩を同じ様に押すが確かに全然力は入っていない。




「えっ!?本当にさっきも同じ力ですか?」




思わずそう聞き返すほど、印象が違った。




「ああ。」と端的に答える先生。




「体幹と重心を意識せずに日常生活をしていればお前とだいたい同じ程度だろうよ。だが、今後冒険者になるにおいて必須である様々な格闘術の基礎中の基礎は何においてもこの体幹と重心だ。」




そう言われ、一気に思考が切り替わる。




「どうやって鍛えたら良いんですか?お願いします。」




「お前のそういう切り替え方は嫌いじゃない。」




先生は少し笑みを浮かべて返答する。




「さあ、やるぞ。」




先生からの一言で一気にやる気が出た。




が、数分後・・・。




「うぐぐぐ・・・。」




僕は肘立てで少し腰を浮かせ、背筋を真っ直ぐな状態でキープという比較的楽に思えた体制を維持するが、ものの数分でプルプルと全身が震えだす。




「おら、どうした。まだ始まって数分だぞ。」




そう先生は言うが、僕は先程と同じ様に全身から汗が吹き出している。




「はあ、まあ最初はこんなもんか・・・。」




その言葉を聞き、少しの休憩が入るかと思われたが、「次の体制行くぞ。」という言葉に頭が真っ白になる。




いくつかの体制を行った後、休憩を入れたと思ったら間髪入れずに今度は一般的な腕立て伏せや腹筋等の筋トレを行い、それも数種類行った後休憩を入れ、そして最初の体幹トレーニングに戻るという地獄のような周回をさせられた。




日が落ち始め、「今日はこのくらいにしておくか。」という先生の言葉とともに初日が終了したことが伝えられる。




「も、もう指一本も動かせない・・・。」




そう言うと、濡れた手ぬぐいを先生が熱の魔法で気持ちがいい程度に温めてくれたものを渡してくれる。




「それで身体を拭いておけ。風邪でも引かれたら面倒だからな。」




「あ、ありがとうございます・・・。ああ、気持ち良い・・・。」




適度に温められた手ぬぐいは汗をさっぱりと拭ってくれ、非常に心地が良かった。




「それと、これだ。」




そう言って先生が手渡してくれたのは独特な臭いがする軟膏の様な塗り薬であった。




「まず間違いなく、明日は全身が痛むだろうからな。多少それで和らぐはずだ。」




その優しい言葉に涙が出そうになる。




「せ、先生・・・!」




「でないと、飯が食えないからな。さあ、夕飯だ。どうしたら良いんだ?」




前言撤回。




ともあれ、昨日約束したとおり、夕飯の下準備はもう既に終わって後は最終段階だけなので、厨房に椅子を持ってきて、先生に簡単な指示を出しながら完成した夕飯を食べる。




「自分が作った飯とは思えないぐらい旨いな。」




そんなことを先生が言ってるので「仕上げだけですよね?」と突っ込むとデコピンが飛んできそうになったので咄嗟におでこを庇おうとするも、体が言うことを聞かず、そのままデコピンを食らう。




「痛い!!」




「おでこに塗り薬はやめておけ、目が潰れるぞ。」




そう言いながらささっと夕飯を終える先生。




「ほれ、さっさと飯を食って寝るぞ。寝るのも訓練だと言っただろ。」




そう促され、味わう余裕もなく気合で食事を終え、寝床についたところで一瞬で気絶するように眠りについた。


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