黒砂の光
馬ノ やすら
第1話 落ちていく光
『ピッピッピ・・・』
白い部屋に白い天井、そこに同じリズムで響く機械の音がただただ部屋に広がる。
ふと横を見れば晴れ晴れとした景色がカーテン越しに窓から見える。
近くには、誰が飾ったかもわからない、白い花が1本だけ花瓶に刺してあった。
(きれいな花だな。誰か来たのかな・・・?いやきっと看護師さんが飾ってくれただけだ。)
『ピッピッピ・・・』
光が差し込むきれいな景色とは裏腹に、ベッドに横たわる命が消えかかっていることを指一本まともに動かせないでいる状態から用意に想像することができる。
(いい天気だ。こんな日に外で散歩でも出来たら最高だろうな。)
『ピッピッピ・・・』
その姿に悲しむものも、涙を流すものもいない。
ただただ一人でその時を静かに待つ。
(ふふ。こんな状態でも誰もお見舞いには来てくれない。)
(なんて、そもそもお見舞いに来てくれる人を知らないんだけどね?)
幼少期より非常に病弱であり、兄弟はなく両親は自身が18歳の時に離婚後、以降共に疎遠となる。
学校にもあまり通った記憶はなく、お陰で友達もいない。
『ピッピッピ・・・』
入院生活が長引き、ほぼ寝たきりの生活になってから、唯一不思議で異能とも呼べるような特技が身についた。
それは「死の匂い」を嗅ぎ分けられるというあまりにも異質な特技だった。
病院での生活が長引けば当然、他の患者が生死の境に立たされ、あるものは生きながらえ、あるものはそのまま死へと旅立つ。
その場面に偶然直面した際、他の者から見れば明らかに死地に立たされているものでも「死の匂い」が薄ければ、その人物は奇跡的に助かることが多くあり、逆に一見すると比較的健康に見えるものであっても、「死の匂い」が強烈な人物は、翌日には実際に亡くなっているという事があり、その異能な特技に気が付くこととなった。
(はぁ、本当になんでこんな、なんの役にも立たない力が身についたんだか。)
(まだ健康で誰かと接することも出来れば、心霊系動画配信者とかになって多少有名人とかにはなれたのかな?)
『ピッピッピ・・・』
「死の匂い」が非常に濃くなっていく。
それは他者から発せられるものではなく、自身から発せられる匂いだということに気がついた。
(本当に皮肉だな。最期にこの能力を使うことがまさか自分自身になるなんて。)
『ピッピッピ・・・』
消えゆく命の走馬灯には、病気で苦しんでいたことと、静かに本を読んでいたこと、ただそれぐらいしか思い出せるものがないくらいの小さな世界、小さな人生の思い出しかなかった。
思い切り走りたかった。
いろいろな場所に自分の足で行き旅がしてみたかった。
友人たちに囲まれてバカをしながら笑っていたかった。
ただ愛されたかった。
そんな最期の思いに静かに涙が一筋流れ出た。
(もし、輪廻転生なんてものがあって次の人生が送れるなら、この足で・・・)
『ピー・・・』
その生命は静かに終えることなった。
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