砂漠の真ん中で、俺は死にかけていた。

「……水、水……」

　冒険者一年目。

　依頼は“砂漠の洞窟の調査”。

　報酬はいいし、初心者向けって話だったのに──ガチで死ぬやつだこれ。

　倒れそうになったそのとき、耳に小さな声が届いた。

『──たす、けて……』

　振り向くと、砂の中に埋もれた小さな少女の姿があった。

　透けるように淡く輝き……どう見ても普通の子じゃない。

「お、おい！　大丈夫か？」

　必死で掘り出すと、少女は弱々しく瞬きをした。

『……ありがとう、人の子よ。

　私は“砂の精霊〈サンドリーナ〉”。

　封印され、千年ものあいだ眠っていた……』

　精霊！？

　俺、死ぬ直前でとんでもないの助けた？

『助けてくれた恩に報いよう。汝に力を与える』

　そう言うと、彼女は俺の胸に手を当てた。

　次の瞬間──

　体の奥から、熱が爆発した。

「な、なんだこれ……！？」

　ステータスを開く。

【攻撃力：12 → 9999】

【魔力量：5 → ∞】

【スキル：砂神支配（S）】

　……え？

『砂を司る力、すべて汝に授けた。存分に使うと良い』

　精霊はそう言って微笑んだ。

　そのとき、砂漠の地面が盛り上がり、巨大な影が現れた。

　──砂鯨。

　砂の海を泳ぐ、凶悪モンスター。

　普通のパーティでも逃げるレベルの化け物だ。

「ちょ、待って、やばくね！？　これ今の俺でも無理だろ！？」

『大丈夫。砂は汝の味方だ』

　言われるままに手を伸ばすと──砂が一斉に立ち上がり、巨大な柱となって砂鯨を包み込み、粉砕した。

　……ワンパンだった。

　俺、強すぎない？？

『汝は世界で唯一、砂を神の領域で操れる者。

　いずれ……運命に立ち向かうだろう』

　精霊はふわりと浮かび上がり、その姿を小さく輝かせた。

『これは契約だ。これからはずっと、そばにいる』

「え、ずっと！？　あ、いや、全然いいけど！」

　こうして俺は──

　弱小冒険者から、世界最強（仮）の精霊契約者になった。

　その日以来、砂漠の砂はいつも俺に味方する。

　まあ、調子に乗るとサンドリーナに怒られるけど。

「……よし。金も名誉も強さも、全部取りに行くか！」

　世界最強になってしまった俺の、砂まみれの冒険が始まった。