〈魔王の呪い〉を解く旅へ
霜月神舞
第0話:絶たれた望み
ドスッ
殺った。
何度も蘇ってきたといわれている魔王でも、心臓をついたのだ。
さすがにくたばっただろう。
これでおしまいだ。
これからは、魔人に怯えて暮らさなくてよい。
人間の時代が来る。
いや、戻ってきたのだ。
忌々しい魔人によって失われていた暮らしが。
近くに転がっている相棒の死体。
魔王を倒すために、死んでしまった。
その死を無駄にはしなかったのだ。
ああ。
きっと、これで平和が訪れる。
そう思った瞬間。
頭に強烈な痛みが走った。
「……ッ⁉︎」
あまりの頭痛に頭を抱える。
脳を揺さぶられるかのような衝撃と痛み。
それが少しずつなくなる。
代わりに感じる。
息を吸うごとに鼻腔をくすぐる、血の匂い。
血。
ドクン
血。血。血、血、血血血血血……!
ああ、殺したいッ!
その意味不明な欲求に先走られ、自ずと手が魔王に刺さっている剣を引き抜く。
ボタタタタ……
血が滴る。
ドスッドスッ
突き刺す。
「クククッ……!」
ああ、いい気分だ!
何度も何度も、原型が保たぬほど突き刺し、グシャグシャにする。
「ウウ……ッ」
足りない。
もっともっと……!
友の死体に向かって、剣を振り下ろす。
「……!」
寸前で止める。
何をやっているのだ、俺は。
我に返る。
だが、刺したい、殺したい、今すぐに……ッ!
「ハアッ、ハアッ、ハアッ……!」
持つ剣が、仲間の死体に向かっている剣が、その葛藤で震える。
「……ッ!」
カランカラン……
やっとのことで、剣を投げ捨てる。
「ゔッ、あッ」
刺したい。刺したい。
苦しい。苦しい。
今すぐ剣を握れ、剣を握れと訴えてくる。
だが、剣を握ったら?
俺は確実に友を刺すだろう。
早く、その前に、ここを出なければ。
その日、魔王が死に、勇者が消えた。
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