第8話 モモの生まれた場所

 リンゴが新たな出会いを果たした。

僕たちのパーティに追加された黒蛇こと黒ぴは、全長は一メートル。

黒皮の大蛇の子供で、さまざまな毒を持っている。


 まだまだ子供らしい。

あと数十年したら、あの一軒家を丸ごと飲み込めそうな大きさになるだろうか?


「まあ、それも進化次第だねぇ。リンゴちゃんと、どんな生活していくかによるねぇ」


「リンゴの黒ぴは、ずっと可愛いままだし」


 リンゴは早速、持ってきた赤のハンカチを黒ぴに巻いていた。

リボンをつけているように見え、一気に女の子っぽくなった。


「てかメスなの?」


「みてわかんない?」


「わかんねーよ」


「女の子だもんねー」


「しゃー」


 はあ、やれやれ。これだから男子ってやつは。

みたいな遺憾を示したリンゴさんは、僕に丁寧に優しく教えてくれた。

言われてもわかんねーよ。


「まあ、次はモモのとこ行くどー」


「「はーい」」



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 僕が見つかった三座、暗岩川あんがんいわは標高の高い山ではない。

岩ばった峡谷で、探索範囲は主に川だ。

ゆえに春先と雨に降る日は、探索禁止だ。


 この三座、暗岩川あんがんいわで最も恐れられているのは、鉄砲水だ。

雨が両端の崖から流れ込み、川が大増水する。

雨が降り始めて、五分後には流されて死んだ。

こんなのはよく聞く話だ。


「今日は天気予報でも雨じゃないから、大丈夫さ」


 そういうばあさんの後ろを僕たちは、ついていく。

三座の暗岩川では、崖や石砂利の上を歩くことになる。

平坦な道に慣れた現代人には、辛い道のりだった。


「ちかれたぴー」


二座でも辛そうにしていたリンゴだ。

それでも黒ぴを肩に乗せ、ついてくる。

それでも二座よりは、楽そうだ。

見つかった場所を見れたからだろうか。

精神に余裕がある。


「あぶね」


 川から飛び出してきた鉄砲岩魚たまいわなをはたき落とす。

こいつらはただ、真っ直ぐにしか向かって来ない。

だから対処が楽だった。


「ひゃ〜、ありがとぴー」「しゃー」


「リンゴは歩くことに集中してな。ここは僕の方が得意そうだ」


「そうするぴー」


 三座で出てくるのは、鉄砲岩魚たまいわなとエンコさけが二種類だ。

エンコさけも小指を目がけてくるので、対処しやすい。


「クマが出たら、ばあちゃんが対処するからねぇ」


「え、クマ出るの?」


「なんでダンジョンに入るのが、人間だけだと思うのさぁ。動物でもスキルが手に入るんだ。九座あたりには、魔物と荒廃した野生のクマが出るよぉ。縄張り争いに負けて、たまにこっちの方まで降りてくるんだよ」


「それってまずくない?」


「まずいねぇ。魔物は階層を渡ることを嫌がるけど、動物はそうじゃない。三年前にも降りてきて、四人ほど食われてたねぇ」


「ああ、小学校が休みになってた時か」


「そうさ。あの時は、運良くダンジョン内で仕留められた。けどダンジョンから出られたら、面倒だろうねぇ」


「なんで?その方が監視カメラとかで見つけやすかったり、ギルドの前を通るから、見つけやすいじゃん」


「そのクマは【隠れるいないいない】っていうスキルを持っていたさぁ。匂いも痕跡も消しちまうから大変だったよぉ」


「どうやって倒したの?」


「黒皮の大蛇が殴りつけて、死にかけているのが見つかったんだよぉ」


「ああ、なるほど」


 あの蛇さんなら余裕そうだな。

確かに赤ちゃんだらけで、おいしそうな餌場に見えたんだろう。

隠れるいないいない】なんてスキル持っていたら、つまみ食いも簡単だと考えたんだろう。

改めてなんであの蛇さん、あそこにいるだろう?


「今は近所中が空き家だらけだべ。それに独居老人も多い。猟師が深層の魔物を狩るのは、難しいだろうし、冒険者がダンジョン外で力を振るうのは、色々申請しないといけない。ほんと大蛇さんがいてよかったよぉ」


「俺も帰りに、この魚をあげに行こうかな」


「そうしときなぁ。あの大蛇さんにはお世話になりっぱなしだよぉ」


 そんな話をしているうちに、目的地についた。

切り立った崖に生えた木が紅葉していた。

ここまで来た道と、なんら変わりない景色だった。


「ここで休憩していたら、大きな桃が流れて来たんだよぉ」


「おお、ここがモモが流れてきたところ。ちょーウケる」


「なんか。リンゴのところみたく魔物が守っていたりしないんだな」


「このまま上流に行っても、ダンジョン外に出るだけだよぉ。何回か探しに来たけど、何にもなかったよぉ」


 ここにくれば、何かわかると思っていた。

自分を捨てた、親に関する何かが。

でもじいさんもばあさんも言ってないだけで、そこら辺は調べ尽くしたのだろう。

調べ尽くして、何も分からなかった。だから言わない。


「帰ろう」


「いいの?」


「うん、ここには、何もないよ。何も感じない」


「そっか」


 振り出しに戻った。いや、一歩前進か。

思考がぐちゃっとした。プラス思考しないと、折れそうだ。


 そんないじけた僕を察知して、リンゴはただ頭を撫でてくれた。


「嘘でしょ」


「全くだねぇ。ほんと度し難い」


 リンゴとばあさんが何かを見つけた。

顔を上げると、そこには。


 大きなアボカドが流れて来ていた。

どんぶらこ、どんぶらこ、と。

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