01.新しい物語と、新しくない出会い
「ここだ」
私――聖エミリは一年一組の教室の前に来た。
……前世の記憶が蘇ったのは昨日のこと。
聖女エミリアが現代日本に転生して、高校生になったのが――私、聖エミリ。
最初は混乱したけど、私の養母であるリリアママが
「あら、やっと思い出したの?」
なんて言うから、ますます混乱するハメになった。
「え……ええ?」
「私もね、転生してきたの。思い出したのはもっと前だけど」
「シスター・リリアも?」
そうだ。
シスター・リリアは前世でも今世でも、捨てられていた私を拾ってくれた人。
教会付属の孤児院で面倒を見てくれて、白魔法の才能にいち早く気づいてくれた。
そして魔法の使い方を教えてくれて、魔王退治の旅への背中を押してくれた、私の……ママ。
「……ま、ママ……」
「あらあら、どうしたの、そんなに泣いて……」
泣き崩れた私を、ママは優しく抱きしめて背中をさすった。
「だ、だって……私、魔王をやっと倒して、ママのところに帰れるって……悠々自適な年金生活しようって思ったのに、死んじゃって……」
「……そうだったわね。よしよし。でも、ここではそういう身の危険はないから、安心して? 日本が平和なのは知っているでしょう? それに高校生は年金生活できないわよ」
私は小さく頷く。
……そうだ。ここでは命の危険もないし、ごはんに困ることも、お金に困ることもない。
毎日お風呂には入れて、ふかふかのベッドがあって、自分だけの部屋がある。
そしてママが必ず「おかえりなさい」と笑顔で出迎えてくれる。
父親は相変わらずいないけど、その分ママに愛されているのは前世と変わらない。
……魔王を倒すときに願ったことが全て叶えられている。
「ママ」
「なあに?」
「明日から、高校生頑張る」
「ええ。頑張ってらっしゃい。前の世界では、勉強なんてできなかったものね。楽しんでいらっしゃい」
「うん!」
――それが、昨日のことだ。
息を吸って、ゆっくり吐く。
そっと扉に手をかけて、横に引いた。
教室の作りは中学とあまり変わらない。
「えっと、ひ……ひ……」
黒板に書かれた席順を見て、自分の席を探す。
あった。真ん中の一番後ろだ。
振り返ると……暗かった。
「……え?」
「見つけた、エミリア!」
「ここにいたのか、我が聖女」
な、なに?
真ん前にいたのは、二人の男の子。
「……る、ルイとリオン……? な……なんで……?」
そう。
笑顔の男の子のガッチリしてて髪が短い方が勇者ルイ、すらりと背が高くて、前髪が長い方が魔王リオン。
二人が高校の制服を着て、満面の笑みで私を見ている!
「今度こそ、俺の妻になってくれ」
「ぬかせ、聖女を妻にするのは我……いや、この世界では僕と言った方がいいんだったな」
「あの、ちょっ意味が……」
「すみませーん、席表見たいんですけど」
「あ、ごめんなさい!」
私は二人の腕を引っ張って、教室の後ろに移動した。
「えっと……、何?」
「あ、名前! 俺ね、宇佐ルイ。同じクラスだからよろしく!」
「僕は真野リオン。同じクラスだ。末永くよろしく」
「おい、ずるいぞ根暗魔王!」
「誰が根暗だ、野蛮勇者!」
「え、ええ~~~」
……ママ、転生で平和になれたかと思ったけど、気のせいだったみたい。
クラス替えって先生に言えばしてくれるかな??
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