第4話



 


 ごう、と空気を裂いて、黒鉄の鎖が魔災獣に向かって一直線に伸びる。

 魔災獣は素早く跳ね、避けようとした——が、鎖はその動きを読むように

 蛇のように軌道を変え、逃げる獣の脚へ絡みついた。


「っ……すご……っ!」


 サンブレイドが息を呑むより早く、

 少女から伸びた鎖は幾重にも巻きついて魔災獣の身体を縛り上げる。

 金属の軋む音。暴れれば暴れるほど、錆の粉が夜に散った。


 次の瞬間——

 鎖の鈍い先端が獣の胴体を貫いた。

 肉を砕くような低い音。

 黒い煙がしずかに散り、光の粒だけが夜風に流れて消える。


 サンブレイドは呆然と目を見開いていたが、はっと我に返る。


 動きを止めた魔災獣。もう抵抗はない。

 今なら——決められる。


「いっけーーっ!!」


 サンブレイドが双剣を交差させて跳ぶ。

 光の軌跡を描く斬撃が、魔災獣の首を断ち切った。


 刃が抜けた瞬間、光の粉がはらはらと舞い、

 魔災獣はゆっくりと形を崩して消えていく。


 絡みついていた鎖も、音もなくほどけた。

 残るものはなにもない。


 サンブレイドはほっと息をつき、双剣を鞘に収めた。


 


「……あ、ありがとう! えっと、あなたは——」


 振り返った先。

 少女はすでに背を向け、空へ向かっていた。

 黒いドレスの裾が揺れ、鎖がその周囲をゆるやかに漂う。


 呼び止めようと手を伸ばした瞬間、

 後方から二つの足音が駆け寄ってきた。


 


「ブレイド! 大丈夫!? どこも怪我してないでしょうね!?」


 鋭い語気と共に飛び込んでくるのは、紺髪をまとめたセレススピア。

 委員長然とした表情で、周囲とサンブレイドを素早く確認する。


「と、討伐対象のま、魔災獣……ど、どこに……ですかぁ……?」


 その後ろから、おずおずと水色の髪を揺らしながら現れたのはシルバードロップ。

 息を切らせ、視線を泳がせながら、恐る恐る周辺を見渡している。


 


「う、うん! 今の魔災獣はもう倒したよ! あの子が——」


 サンブレイドは指を伸ばす。


 だが、その方向。

 


 そこには、もう誰もいなかった。


 黒いドレスも。鎖も。

 ただ夜風と微かな鉄錆の匂いだけが、さっきの気配の残滓をそっと散らしていった。

 

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