星空心中
月兎耳
第1話
「空、飛べると思う?」
彼女は見慣れた儚い笑顔で僕を振り返る。
その細い肩越しに、煌びやかな夜景とかすんだ星が広がっている。
こんなのは異常だ。
だって彼女の足元には、その体重を支える床も地面もない。
こんなのは異常だ。
僕は手を伸ばして彼女を引き寄せる。
僕の手で彼女を支えようとする。
しかし、それよりほんの僅かに早く彼女の体が沈み込む。
僕の指先をかすめて、彼女の軽い…、けれどこの星の大気が支えるには重すぎる体が、煌めく夜の街に吸い込まれていく。
こんなのは異常だ。
こんなに彼女を大切に思っている僕の手が、届かないなんて。
あの笑顔が次の瞬間にはトマトのように弾けて消えてしまうなんて。
あの白い腕が。細い足が。
こんなのは異常だ。
こんなのは異常だ。
こんなのは、こんなのはこんなのはこんなのは!!
飛び起きた。
とりあえず自分がベッドの上で、お気に入りの羽毛布団を掛けて寝ていたことに安堵する。
隣の家の窓をこっそり覗く。
今夜は彼女も自分のベッドに静かに横たわって寝ている。
おばさんはまだ起きているようで、電気のついた部屋がいくつかあった。
僕は心から安心して息を吐いた。悪夢を振り払う為に頭を振る。
その時、ブーン、とパジャマのポケットに入れていた携帯が目覚めの時間を告げた。
今夜は早起きしたようだ。
汗をかいてじっとりしたパジャマをばさばさ煽ぎながら、目覚ましの振動を止める。
時刻は深夜0時。
だらけた男子高校生には早起きすぎる時間だ。
いつまでも続けられる事ではないかもしれない。
それでも。
今日もまた、彼女を見守る夜が始まる。
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