『いちごミント』番外編 ――ルナ様、彼氏とディスニーへ行く――
@harukanatsuki
第1話 ルナ様とユーリくん、初デートの相談をする。
ユーリ(神城湧飛/かみしろゆうひ/Yuli)と、ルナ(ルナ・ヴェルゼ/Luna)が、彼氏と彼女になって2週間ほどたった日のことだった。
ぶぅん、とモニターの起動音が響き渡る。ユーリの部屋のディプロ――3Dプロジェクター越しに現れた20歳ほどの金髪の女性は、王侯貴族のようにあでやかな微笑みを浮かべながら。
「ディスニーに行きたいのよ」
「ああ、わかってる。今は春休みだから、日付は合わせられると思う」
「Very Well.」
ユーリの『彼女』――ルナは、流暢な発音で応じつつ、おもむろに通信端末を取りだして。
「それでは、予約を取るわね? ――Good day, travel agency?」
「? トラベルエージェンシー? 旅行会社?」
「ええ、先ほど電話したLuna Verseです。 ディスニーの日付が今週の金曜か、来週に――え? 難しい? いいわ。ならば結構です、他に――え? バケーションプラン? いろいろあるのですね。ええ、ならそちらで構いません」
「?? バケーションプラン?? ?」
嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか。
「? ホテル? ディナー? 申し訳ありません、前提知識がないので、とりあえず一番スタンダードなものでお願いしてよいかしら」
「おい待て」
「値段? あとで秘書に連絡させます――って、あら失礼、デートでした。一名分で教えてくださる? 概算15万? ――ユーリ、貴方もそれでいい?」
「い い わ け あ る か ーーーーーー!!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
思わず全力ツッコミをしてしまったユーリに、『彼女様』は不思議そうに。
「二日間で二人で30万ですって。日本の金銭感覚わからないけど、こんなものなの?」
「違う!!!」
「そうなの?」
「よっぽど贅沢しても、二日で二人なら10万ありゃ足りる。一人5万、それが限度。それ以上は俺も出せない」
「あら、5万でいいの? 旅行会社の話と違うわね。じゃあ、こっちで差額10万出せばいい?」
「嫌だ、出すな」
「?」
「そういうのでお前に頼る気はない。自分の分は自分で払うし、出来ればお前にも付き合ってほしい」
「!」
「つーか、ディスニーランド、シー、2日間行くとしても、チケットにそれぞれ1万、滞在費に1万ありゃ足りるだろ。それが二日分で一人35000くらい」
「残りの15000は?」
「…………二日間行くって言いだしたのはお前の方だろ」
「??」
「ホテル代」
「? なるほど。? なんでそれで顔を背けてるのよ?」
「あーーーーえっと。お姫様。男女がホテルで泊まるって意味わかってるか?」
「……? 普通でしょ?」
「……俺と同室ってことでいいのかよ」
「!! どーーしてそうなるのよっっっ?!?! さっ流石に早すぎるわよ! たしかにソファベッドくらいあるでしょうけど、一緒の部屋なんか無理に決まってるでしょ別室で寝てよっっっ! そういうものでしょっっっ?!」
(ぁーーーーーーそーーいうことかーーーーこいつそういうことだーーーーー)
「い、い、か、お姫様。ディスニーの、一人予算15000で泊まるって、こういう部屋」
サブモニタに映ったであろうホテルルームの検索結果に、麗しの姫君様は。
「!! こっ、こんな狭いところであなたと二人なの?!?! え?! リビングルームは?! バスは?! キッチンは?!」
「そんなものあるか!その値段じゃスイートは無理なんだよ!!」
「こっ、この国の常識どうなってるのよ?!?!」
「『常識どうなってんの?!?!』 はこっちのセリフだーーーーーーー!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ぜい、ぜいと呼吸音がする。めちゃめちゃヒートアップしている。
だんだん頭が混乱から冷めてきた。少なくとも悪意はない、こいつに悪意はない。そして、自分も悪意はない。同い年、幼馴染のよしみでツッコミあっているだけである。
(なんとなくわかってきた……こいつはお嬢様だ。しかも超ド級の。全然知らないというか、世界観とテーマパークだけあること知ってて、具体的には何も考えてない感じがする……さっきの通話も『とりあえず旅行会社に任せとけばいいでしょ』みたいな……)
しかし、なんといっても今回は初デートである。しかも20歳にして初彼女である。ここですり合わせもできないようなら色々なものを諦めたほうがいい。
そんな、断固たる決意のもとに。
「――なあ、俺たち。話し合いが必要だと思わないか」
「ええ、そうね。相互理解が必要だわ。――申し訳ありません。また電話します」
「通話切ってなかったのかよ!?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――なお、まだこの時点では誰一人知る由もなかった。二人の戦闘力差を。
神城湧飛、通称ユーリ、大学三年生。手持ち現金、内訳。
■ 月のバイト?代 \50,000
* うち食費 \16,000――
* 奨学金返済 \8,000――
――――――――――――――――――
→ 戦闘力 \27,000。(なお、個人貯金12万)←ザーボンさん
日本の男子大学生としては、自由に使える金は多くない方だ。しかし奨学金もあるし、いざとなれば貯金もあるし、食費は自分でコントロールできるのでたいして気にしていなかった。何より実家住まいは最強である。
ディスニー。月の小遣いの大半を放出するものの、彼女が初デートで行きたいと言い出したからには、きちんと準備して付き合うのが礼儀というものではないか。
しかし、今回は相手が悪かった。――悪すぎた。
なにせ、「貴族が札束で時間をビンタする」パケプラである。春休みのこの時期、戦闘力\150,000(ギニュー隊長)なぞ軽い方で、しかも春休みとなれば\180,000(ナメック星到着時の悟空)超えなぞ当たり前。
ユーリは無謀にも、『ザーボン単騎』にて、『界王拳悟空』に挑もうというのである。
だが、彼はまだ何も知らなかった。
眼の前のルナ・ヴェルゼ――たった2週間前に初めてできた『初めての彼女』。異国の地で再会した麗しの幼馴染が、どれほどの戦闘力を持っていたのかを。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ルナ・ヴェルゼは財団令嬢である。しかも世界レベル。一族からは某国首相も排出経験があり、王族貴族と結婚した例も後を絶たない。
その『10の王冠(デケム・インシグニア)』――派生財団。その後継者たる彼女の手持ち可処分現金(投資余力含む)たるや、実に50万ドルを超えていた。
ざっくり日本円にして、戦闘力\75,000,000。 ――最終形態フリーザ様。
しかもこれはあくまで『可処分現金』である。つまりは『彼女個人で、誰の承認もなく動かせるお金』にすぎず、平たく言えば彼女はいくつもの変身を残しているのだ。
すなわち、真の戦闘力差、2777倍。
\27,000(ザーボンさん) VS \75,000,000(フリーザ様最終形態)。
この状況で話し合いを挑もうというのである。
ときに、神城湧飛、20歳。
誰しもが絶望を禁じ得ない中、宇宙の帝王に果敢に挑まんとするユーリは、間違いなく『たったひとりの最終戦士』であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――――――――――――――――――――――――
※なお、ユーリくんの戦闘力27,000と貯金12万を足しても15万には届かないのがミソです。
※長編ファンタジーの現代版スピンオフです。楽しくなってきてしまったので先にこちらから発表してゆく予定です。
※『現代版』本編の更新は2026年2月予定です。(今回は先行のみ公開)
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本人の勉強のため、DeepL翻訳をベースに、英訳版を作成しています。RoyalRoadにおいてありますので、ご興味がある方はそちらもご覧下さい。
※This work is also posted on RoyalRoad.com by the same author.
(作品は作者本人がRoyalRoad.comにも投稿しています)
https://www.royalroad.com/profile/854284/fictions
※キャラクター(ユーリとルナ)は作者のオリジナルです。この二人の物語を作者は描き続けます。
プロローグしか書いてない本編も一応こちらにおいておきます。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18624402
『いちごミント』番外編 ――ルナ様、彼氏とディスニーへ行く―― @harukanatsuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。『いちごミント』番外編 ――ルナ様、彼氏とディスニーへ行く――の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます