第6話_大掃除大作戦
二階の状態を見終えた俺とかなえは、翌日に一階フロアの掃除を行うための作戦会議を妹の部屋でしていた。ちなみに、俺は一階のリビングで話し合おうと言ったが、かなえは全力で拒否してきた。
そして、かなえは余程一階に私物を置くのが嫌だったのか、ルームツアーをした後、すぐに妹の部屋へと移動させた。
「これから、神谷家の大掃除作戦会議を始めま~す!」
妙なテンションのかなえが声高らかに宣言する。
「そんなデカい声出すなよ。作戦会議っていっても掃除するだけだろ?」
「ねぇ。どの口がそんなこと言ってるの......? こんな状況にしたのは蓮くんのせいなんだけど」
「まぁ......その通りです......すみません......」
再び鬼の形相で俺を見ながら言ってくる。俺は何も言い返せなかった。
「とりあえず、明日は玄関とリビングをピッカピカにします! 明日は何のゴミが回収されるの?」
「すまん。今までゴミ出してこなかったから分からん......」
「…………はい???」
かなえの顔が、ゆっくりと渦巻きみたいに歪んでいく。
「え……じゃあ蓮くん……もしかしてその辺のゴミ……全部コレクションみたいに溜めてたってこと……?」
「いや、コレクションとかじゃなくてだな……その.......気づいたら……こう……」
「気づいたらじゃないよ!! ゴミは定期的に捨てるものなのよ!」
妹の部屋に、怒号が響く。
あぁ、妹よ……異国の空の下で元気にしてるか? 俺は今、お前の部屋で幽霊に怒号を浴びせられているぞ。
「はぁ......。じゃあさ、明日はまずゴミの種類から把握していこうか......妹ちゃんのこれ、借りていい?」
そう言いながら、かなえは真顔で妹の机に置いてある新品のノートを指差した。
「どうぞ、ご自由に。というか、お前.......そのやる気はどこから湧いて出てきてるんだ?」
「やる気とかそういう問題じゃないでしょ。あと、掃除は計画で八割決まるの。まず明日やることリストを整理してくね」
なるほど、掃除は計画で八割決まるのか。覚えておこう、多分明日には忘れてるけど。
スラスラとペンを走らせながら、かなえはぶつぶつ呟く。
ノートに書かれた内容はこうだった。
①玄関の靴を整頓し、洗浄・天日干しする
②可燃・不燃ごみの仕分け
③ペットボトルの回収
④床の発掘作業
⑤リビングの生態系調査
「おい、四番と五番の項目、悪意あるだろ」
「悪意も何も事実でしょ!?一階のあの感じ、絶対なんか繁殖してるって......あの湿った感じとか......」
まぁ、確かにそうかもしれん。研究チームとかに調査させたら、新種のキノコとか発見してくれそうだな。
「とにかく! 明日は気合い入れよ? 蓮くんも二階を綺麗に出来るだけの掃除スキルがあるんだから!」
「いや、俺が掃除出来るのは自分の部屋限定なんだけど......」
「ねぇ、何か言った?」
まずい、かなえの目が本気で怖い......。幽霊だからか? いや、やっぱり何でもない。
「いえ、何でもないです......」
「それでよし! で、明日のあさイチでゴミ出し調べに行こうね!」
かなえの言葉から、俺は重大な事実に気が付く。
「あのさ、俺、明日学校なんだけど......」
その言葉を聞いた瞬間、かなえのペンが止まり、スッ……とゆっくり視線が俺のほうへ向けられる。
「…………学校?」
「あぁ。普通に学校がある。朝から夕方まで」
「………………」
かなえのまばたきの回数が、めちゃくちゃ減っていく。
まずい。これは“深刻なバグが発生した時の目”だ。幽霊でもバグは発生するんだな。
「蓮くん……」
「な、なんだよ……」
「どうして、もっと早く言ってくれないの?!」
本日三度目のかなえの絶叫が部屋に鳴り響いた。
「あ~~~~~もう!! なんでよりによって明日なの~~!!」
かなえはベッドに顔を埋め、バタバタと足を動かす。
妹のベッドが泣いている。すまない妹よ……俺のせいで幽霊が壊れた。
「いや、七分の五の確率で学校はあるだろ。それに、掃除は俺が帰ってきてからでもやればいいだろ?」
「ダメよ......明日もこの状態で半日過ごすなんて、わたし、そんなの耐えられない......」
ベッドに顔を埋め、次は体をバタバタさせている。そして、急に体を起こして俺の前まで接近する。
「もういいよ! 蓮くんがいなくてもわたし一人で掃除するから! ひとりでできるもん!」
さっきまでのテンションを置き去りにしたのか、かなえは意気込んでいた。
こいつ、情緒不安定すぎるだろ。
「あのー......」
「その代わりにさ、今日中に明日可燃ごみか不燃ごみの回収日か調べて! どっちでもいいから明日出せるなら出したい!」
俺の言葉を聞く耳などもたないかなえが急に課題を出してきた。
「はい......分かりました......」
内心、めんどくさいとも思ったが、この状況で俺が反論できる余地なんて微塵も残っていなかったので素直に受け入れた。
そして、この瞬間にこの家の主が俺からかなえに移ったのも確かだった。
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