第2話・お父さん見ていてバンバンバン

 撮影所を出たグレイと妹のガー、それとコウの三人は、スタジオ近くのファストフード店で食事をした。

 グレイが店の、壊れた窓ガラスに貼られたビニールを見て呟く。

「この店のガラスも、ずいぶんと割られたね……そろそろ、別の場所を考えないと」

 グレイが光子力なドリンクを飲んでいると、割られていないガラスを突き破って一人の少女が飛んできた。

 少女は店内で身体を丸めて手足を出した体勢ガォークから、人間の少女体へと変形した。

 人間体になったマシーン娘──『バル』が舌を出して言った。

「てへっ、またやっちゃった」

 グレイが悪びれないバルの態度に、静かなヤンキー口調で戒める。

 グレイは仲間のマシーン娘たちと、一緒にいる時は肩の力を抜いてモデル口調から変わって、ヤンキー口調で喋る。

「やっちゃったじゃねぇだろう……どれだけの店のガラスを割れば気が済むんだ……人数も揃ったコトだし会議はじめるぞ」


 第何回目かの『マシーン娘は今後どうあるべきか?』の簡単な会議がファストフード店ではじまった。

「店の人からは店内での会議はほどほどにと、言われているから簡単にな……なにか言いたいコトがあるマシーン娘は挙手して」

 バルが元気に手を上げる。

「はいはい、あたしの夢はアイドルになって歌うコトでーす! あたしの歌を聴けぇ!」

「アイドルやるなら、できるだけ変形しないようにね……アイドル変形しないから」

 コウが自分の頭を、両手で上に引き抜いて言った。

「じゃあ、頭をこんな風に上に引き抜くのは? お父さん見ていてバンバンバン」

 コウが手を離すと頭部は磁力で、胴体に引っつく。

「あまり、人前でそれやると普通の人間は驚くからやらない方がいいよ……他に何か言いたい人は?」

 妹のガーが、控え目に手を挙げて言った。

「お姉ちゃん……あたし、思うんだけれど……もっと、たくさんのマシーン娘さんの意見を集めた方が」

「例えば誰?」

「あたしの学校の後輩の、いつもガイコツのティーシャツを着ている『ガイ』ちゃんとか」

「あぁ、あの子……一度、紹介されたけれど……トラウマになるようなコト平気でするわね、他にマシーン娘の知り合いがいる人は?」


 コウとバルが手を挙げる。

「あたし、マシーン娘の知り合いいるよ。超磁力系の繋がりで」

「あたしも、大きい女の子だけど」

「じゃあ、次回の会議は場所を変えて、多くのマシーン娘の意見を聞くというコトで」


  ◆◆◆◆◆◆


 公共施設のホールを借りて、何回目かの『マシーン娘は今後どうあるべきか?』が、お菓子と大型ペットボトルの飲み物が用意されて開催された。

 ガーが連れてきたのは、後輩のマシーン娘で胸が大きくて、爬虫類ガイコツの顔がプリントされたティーシャツを着ている女の子だった。

 頭の左右に大きな角の髪飾りを付けている。

 ガイコツティーシャツのマシーン娘──『ガイ』が、グレイに言った。

「ガーのお姉さん、久しぶり……それじゃあ、景気づけに【顔面開放オープンフェイス】ばぁぁ」

 ガイの開いた顔面を知らないで、いきなり見たマシーン娘たちがパニックに陥る。


 さすがにグレイが怒鳴った。

「それやめて! 初めて見た人は、ショックが大きすぎて、トラウマのパニックになるんだから!」

 まったく、悪びれている様子がない口調でガイが言った。

「開いた顔面の口から火を噴いたり、顔の横からミサイル飛びますよ……やってみますか、あと胸から巨大なアームのバサミと、お腹から大きな刃物とか」

「だから、アニロボの魂から受け継いだ力は一般生活で使うな! あたしたちは、人間だ!」

「そんなコトを言っても……あと、あたし体を丸めるとブラックホールの吸引力にも耐え……」

「られるワケがないだろう……丸くなっただけで」


  ◇◇◇◇◇◇


 コウが連れて来た、超電磁力のマシーン娘は二人いた。

 一人は制服姿で、ヨーヨーで遊んでいるキツネ耳のマシーン娘で。

 もう一人は別の学校の制服姿で、剣を持っていた。

 コウがヨーヨーで遊んでいるマシーン娘を紹介する。

「この子は『コン』ちゃん……コンちゃん自己紹介して」

「コンでーす、超電磁な竜巻起こせまーす! 身長と体重は……」

 グレイが慌てて、コンを止める。

「あなた、人間だからアニロボだった時の身長と体重は忘れて……スピンも禁止、そっちの剣を持った物騒な子は?」


「『ボル』です……趣味は敵を剣で肩口から袈裟けさがけで切り裂いて、みぞおち辺りで強引に剣を反転させて反対側の肩口へV字型に切り裂く技です……あぁ、早く敵を切り裂きたい」

 ボルは剣で敵を切り裂く光景を想像してコマを回して、恍惚とした表情をした。

 それを見てグレイは「コイツ危ねぇ」と、思った。


 バルが連れてきたマシーン娘は、グレイが想像していたマシーン娘とは異なっていた。

 確かに体が大きいマシーン娘だったが、数体の動物メカが合体したようなマシーン娘だった。

「胸にライオンが付いた『ゴラ』とか、原祖胸ライオンの『ダル』とも違うみたいだけど……てっきり、戦艦に拳をめり込ませる、バルのお姉さんを連れて来ると思ったけれど……あなた、誰?」


 謎のマシーン娘が、囁くような口調で言った。

「あたしは、獣を越えて……人を越えて……機械を越えて……神になる存在のマシーン娘……やってやるぜ」

「あッ『ダンク』か……また、イッちゃったのを連れて来たわね」


 他にもなぜか、噂を聞きつけてマシーン娘たちがゾロゾロ集まってきた。

 変形する者、合体する者、会場はマシーン娘たちで一杯になった。


 それを見てグレイが悲鳴を発する。

「多すぎよ! 異世界から来た虫型とか、宇宙から来たマシーン娘とか……キリがないから、意見ある人はグループごとに考えを統一して言って」


 一呼吸置いてグレイが言った。

「このままだと、あたしたちがニュースで叩かれて存在意義がなくなる。だから“人間社会でどう振る舞うか”を決めたい」


 紅いジャージを着て、プロレスをはじめるマシーン娘がいたり。

 マシーン娘同士で、闘いをはじめる者がいたりと……収拾がつかない状態になってきた。


 それでも、集まったマシーン娘たちの、共通した意見は。

「やっぱり、敵と戦いたい』だった。

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