至誠館高校 生徒会室は、本日も憑依中
びあんこ
第1話 降霊術とお弁当
…ろしてやる、絶対に…呪い、コロ、し、て、ttt…
―バンッ!―
鉄製の机が震えながら低く鳴き、生徒会室に沈黙が走る。
「どうかナ?!何点何点?!」
「論外」
「退学案件」
目を輝かせ、己の演技の評価をねだる友人を前に、視線の先のスマホから目を上げようともせず、彰人と麗の二人は素っ気なく答える。
「過去最高の出来だと思ったんだけどナー」
「いやいやユウトさん、机叩いてでかい音出すのはセオリーに反してない?」
彰人はスマホから顔を上げ、机を人差し指でトントンと軽くたたきながら聞き返す。
「何のことやら。それと彰人、今のボクはユウトじゃなくてベ・リ・ア・ル!前も言ったはずだヨ?」
「あー、俺今日の朝食それだったわ」
騒ぐ二人に釣られたように、麗もまた、会話に自然と参加する。
「それはシリアル!日本人だろ、米食べなヨ、米!」
「それは本人の好きでしょ。あとベクトルさんって何人なの?」
「知らぬ間に数学者にジョブチェンジとは、さすがボク」
「こいつ、名前にプライド微塵もねーのか」
「ちなみに出身は埼玉県ダ」
「そこは天界であってよ」
「大宮の辺りがホームタウン」
「都会っ子の幽霊はなんか…生理的に無理だわ」
「わかるよそれ、キモイよね」
「はい呪いまーす」
「幽霊ネタで善良な高校生を脅すな悪霊が」
相も変わらず、今日も今日とて、生徒会室には賑やかな若者の声が飛び交うのだった。
中部地方南西方向に所在する至誠館高校、ここはこの地域でもかなり有名な男子校だ。
創立から早100年以上、少子化問題が叫ばれるようになってなお、市の内外から多くの受験生が毎年やってくる伝統ある学校である。
そこに通う裕翔は、彰人、麗と共に生徒会本部役員に今年六月に就任した、たった4人の数少ない1年生の一人だ。1学年400人規模の高校における4人と思えば、相当にレアと言えよう。
―しかし裕翔は、それとは別に、本当の意味で「レア」な高校生だ—
「にしてもレイ、今更だけどいいの?用もないのに」
「よくぞ聞いてくれたね彰人君!そう、この俺、春日井 麗は、生徒会長から直々にこの部屋の使用許可をもらったのだ」
「ほう、続けて」
「以前部活帰り、いつものようにかぁちゃんの愛妻弁当箱を教室に忘れた俺は、自分の席目指して全力疾走していた」
「え、ん?」
「ベリアルさん、こいつは生粋のマザコンです。突っかかるだけ無駄だよ」
「流石幼馴染」
「腐れ縁と書いて呪いと読みます」
「解呪できないからよろしくな」
「黙れ、早く話し進めろ」
「り。すると、あら不思議、なんの活動予定もない生徒会室のライトがついているじゃありませんか。扉を恐る恐る開けるとそこには生徒会長。事情を聴くと、生徒会活動を名目に、個室勉強部屋としてここをたまに使うらしい」
「そういうのってアリなんだナ」
「もちろん駄目らしいけど、誰も来ないから問題ないんだと、そういう話」
そこで、と言いながらキャスター付きのぼろい椅子から、麗はすくっと立ち上がる。
そして裕翔を指さし、にっといたずらっぽく笑んだ。
「霊を自在に憑依させられる裕翔の能力をここで検証、もといそれで遊ぼう、と考え、俺もここを使いたいって会長にお願いして、オッケー出た」
「確かに、降霊術なんて実在するって分かれば、みんな大騒ぎするもんね」
彰人が肩をすくめ、見つめる先、裕翔はきょとんとした顔で話を聞いていた。
そう、裕翔はある日から突然に幽霊を自分の身体に憑依させる、所謂降霊術というものができる能力に目覚めた、とても特異な高校生なのだ。
これはそんな能力を密かに共有する男子高校生たちが織り成す、昼休みの些細でかけがえのない青春の日々を描いた物語だ。
「ちなみにお弁当箱どうしたの?」
「ん?さっき取りに行ってきたのがこちらです」
「ばっちいヨ!」
「3連休挟んだのは地味に痛いな」
「冷静になるな、冷静にっ」
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