行かなくなったお店

七乃はふと

行かなくなったお店

 あたしの目的地は電車で二十分の一年前に出来たばかりのショッピングモールだった。

 そこにあるお店で限定のコスメが入荷したことを知ったから。

 ネットで調べてみると、まだ在庫があるそうなので、学校帰りに制服を着たまま、バイト代の残りを持って出てきたのだ。

 最初はエレベーターで登ろうとしたのだが、扉前には下校時間が重なった学生達で溢れていた。

 流石に他校の生徒と狭いエレベーターに乗り合わせるのは抵抗があったので、エスカレーターを使うことにした。

 すぐ近くのエスカレーターにいきいおいよく足をかけると、ガタっと揺れて首筋に冷たいものが走る。

 以前目の前で緊急停止したのを思い出してしまったのだ。

 あたしは乗ってなかったけど、止まったエスカレーターにいた人達がバランスを崩し、あわや転げ落ちそうになったのを見て、しばらく乗れなかった。

 でも今乗っているのは止まることなく、ゆっくりと上がっていく。最初は流れに身を任していたのだけど、遅い。

 今は二階。目的のお店は八階。売り切れたら嫌だからと、歩いて登ろうかと思ったが、降りエスカレーターにいた警備員と目が合って断念。


 異変は三階を過ぎた時に起きました。


 ゆっくり登る段に立っていると、何か違和感を覚える。斜め上に動く段が小さく振動していたんです。気づいた途端、口の中カラカラになったけど、欲しいもの諦めたくなかったから、登り続けました。

 すると、どんどん振動が大きくなっていくんです。

 最初は足の裏に感じるほどだったのが、手すりを持っていないと立っていられないくらい。他の人はというと、何事もなくエスカレーターを利用していました。

 あたしもエスカレーターを降りると振動は感じないのに、乗った途端ガタガタ揺れ始める。

 体調が悪いわけではありませんでした。最初に話した通り、学校には行ったから。

 意地になっていたのか、階段もエレベーターも使わずにエスカレーターを使って、目的の階まで後少し。というところで振動はさらに大きくなり、ぎゅっと両手で手すりにしがみつきました。

 ふと視界に入ったのは、エスカレーター側面にある鏡。あたしは揺れている事も忘れて見てしまったんです。

 子供の背中でした。背格好からして小学一年生くらいかな。

 その男の子があたしの方を見て、ぴょんっぴょんって飛び跳ねていたんです。

 それに合わせてエスカレーターも大きく揺れる。もちろん隣には人の姿はありません。

 私はエスカレーターを降りると、真っ先に見えた非常階段を使って店を後にしました。


 そのお店? 今も何事もなかったかのように営業していますよ。

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行かなくなったお店 七乃はふと @hahuto

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