異世界に夢見る物語


 忌憚なきイベントより参りました。三文文士の千古不易です。

 恐らく、文法の見直し、是正箇所の提案、並びに描写する上での主語整理に着目するこんニャロォは少ないと思いますので――小さな親切大きなお世話な可能性はあるものの――敢えて語らせて頂きます。

 基本型式は提案例、そして簡潔な提案理由や気分次第で解説、等を並べる感じでやります。

 あ、別に正解とかじゃないので、あくまでも参考程度に。

 ふうん、こんな意見もあるんやねえ、みたいに読んで下さればと。

 特に気になった、引っ掛かりを感じた箇所をピックアップしますね。

 ほな、始めさせて貰います。




「人影が二つ、そしてその周囲を飛び回る黒い小鳥の陰が薄暗い細い路地にあった」
提案 「〜薄暗く細い路地にあった」

理由 『薄暗い様子』また『細道である様子』この二つを同時に表現するなら、提案例の方が事象を並列させつつ描写の流れが自然です。

『薄暗い様子』『細道である様子』のどちらか片方を更に強調したい場合は潔く描写を分割すると効果的です。その場合は全体の主語の整理、描写する際の読者視点、特筆してカメラワークを意識すると良い感じです。

例「人影が二つ。そしてその周囲を飛び回っていた黒い小鳥が方向を変えれば、地面を這っていた小鳥の陰は薄暗い路地へと吸い込まれていった。その消えた影を探そうものなら、窄んだ路地に招かれる声すら聞こえそうである」

 みたいな。あ、堅苦しい書き方ですけども。



「〜目の前はところどころ錆び落ちた鉄柵がある」

提案「〜目の前『には』〜」

理由 このタイプの風景描写であれば、接続詞の持つ絶妙なニュアンスの違いもあって提案例の方がより正確に伝わります。一応、文法的には後者の方が助詞の役割が明確になります。

『〇〇は〇〇』の記述の場合、差し迫った状況で用いられたり、短文的描写で活用される助詞としての側面がありまして。

例「目の前は崖」と「目の前には崖」

 この二つは同じようで全く状況が違いまして、前者は字数を圧縮し『は』で繋げた『後』をより強調させる事も可能な助詞となります。イメージで言えば慌てている印象を前者は与え、より緊迫した空気を演出する力がありまして。逆に後者は目の前は崖であるのに、確りと『崖だな』と認識するような、一種の俯瞰、確認の余裕が内包されております。




「上下シンプルな黒い服に身を包む細身の身体でだるそうに足を踏み出し〜」

提案 「シンプルな黒い服に細身を包み、だるそうに足を踏み出し〜」

理由 伝達の効率化と明確化。

 文法的に間違いではないのは勿論把握した上で――厳密に正しさを突き詰めると服は『全体』の意味があるので『上下シンプルな黒い服』は重語の要素があります、けど、そんなもん気にする奴はいないので――着目して頂きたい点を改めて簡潔に述べます。

 この描写の行では連続して『身』が出ており、文法的に正しくとも冗長になっております。意図する部分が『衣服、行動、心境』の提示だとすれば、提案したように思い切って描写を削るとより美しいかと存じます。

 読者の視点も揺れず迅速に伝わるので、敢えて『削る』のも手段の一つですよね。

 


「ひらり、と服が風に揺れ、「やだもうクールなんだから!」という低い声を高く上げる店長を無視するのも慣れた様子だ」

提案 「〜という低い声を、わざわざ引き絞って高く上げる店長を無視するのも慣れた様子だ」

理由 先ず『低い声であるのに高い声』は一見は矛盾しているものです。ですので、読者に理解する猶予を与える工夫をしています。この場合は句読点の調整、小さな描写の追加で時間感覚をやや確保する、店長を無視する行為の恒例さの強調、を主眼にした是正提案となっています。

 詳しく分析するとこの行は『店長を無視する恒例行為』の描写であるので、同描写内でその主題を妨げる要因を組み込んだままに主題を強調する場合の提案例となっております。

 追加した描写の役回り。
 店長が地声からわざわざ裏声にしている様子の補完=キャラクターの造形強化。
 低いのに高い声と言う矛盾したイメージを強固にしつつ明確に伝える時間配分(意図的な読者の休憩)も兼ねる=インパクトにより主題がぶれない為の処置。

 ですね。あ、一例ですよ。こんな風なのもあんだな、で大丈夫ですからね。これは、ほら。修正案であって、こうしたらこんな風になるよってイメージの為の、奴です。

 兎角。

 五
 「今度は迷うことなくトランクの蓋部分のポケットに手を伸ばし、ひらっひらな真っ白なエプロンだけは手に取ったあと粗雑に地面に放り投げ、不満の声を上げる店長を無視しながら取り出したのは、赤黒く渦を巻くような小さな球体だ」

提案 
 「今度は迷うことなくトランクの蓋部分のポケットに手を伸ばし、ひらっひらな真っ白なエプロンだけを真っ先に手に取ったあと、吟味するでもなく粗雑に地面へ放り投げる。不満の声を上げる店長を無視しながら次に取り出したのは、赤黒く渦を巻くような小さな球体だ」

理由 自然な句読点配置による視点移動の円滑化、及びメリハリ。

 長い文章自体は間違いではないですが、伝えたい事柄が渋滞すると読者への負荷になります。そしてこの描写を鑑みて『ひっらひらなエプロン』へやや傾けて心境、態度、キャラクターの造形、そして主題である『目的の物を探り出す工程、また達成』をより円滑にする提案です。

 『ひっらひら』と三人称でありながら痩せた従業員の主観が混ざった表現があるので、その意図を踏まえた場合の提案となっています。

 一旦句点で文を区切り、仕切り直す事により全文で『探す工程、完遂』をより明確にしています。加え、折角仕切り直すならば『ひっらひら』に関わる部分を強化するような描写を追加し、より直球な表現でユーモアと切実さを演出しています。

 一貫して店長を無視するようなユーモア、従業員からすれば切実でも読者からはコミカルな絵面、そして主題をはっきりとさせるような修正案となっています。

 一例ですよ! 一例! 本気で文章構造を分析して、こうすると表現の幅、意図の強調が可能では、と言う……親切し……いや、趣味か……?

 ああいや兎角。


 そんな訳で、ピックアップと言いながら大真面目に殆どの文章を解析して提案や解析をした訳でありますが。多少なりともあなたの力になれたら幸いです。

 面白かったです! そして、あなたへ、すみませんでした。

 ではまた、機会があれば良しなに。

PS 上記のこれは三文文士の世迷い言であり、正解ではなく、あくまでも一例です。