第15話 ー 悠斗くんも一緒に ー
ーー鈴虫の声が響く、夜の公園。
マネージャーがタクシーを降り、真尋のもとへ駆け寄る。
「真尋さん、沙羅ちゃんは……」
「そこです。」
真尋が静かに指さす先。
薄暗い街灯の下、ベンチに並んで座る二つの影が見える。
膝に愛犬を抱き、そっと寄り添うように眠る悠斗。
その肩に顔をうずめて眠る沙羅。
マネージャーは思わず息をのむ。
「……寝てる。」
「悠斗に会えて、やっと安心したんでしょう。」
「じゃあ、彼が……」
「はい。沙羅が“大好きな”悠斗くんです。」
マネージャーは一瞬戸惑ったような表情を浮かべる。
真尋は苦笑して言う。
「今、思ったでしょ? “イメージと違う”って。」
「えっ……そ、そんな……はい。少しだけ。」
「でもね、あいつ……めちゃくちゃいいやつなんですよ。 俺も大好きなんです。」
真尋の穏やかな声に、マネージャーはふっと笑みをこぼす。
「……じゃあ、間違いないですね。」
沙羅がゆっくり目を開ける。
「ん……んん……」
「あ、沙羅さん。起きましたか。」 悠斗が優しく声をかける。
「私……寝ちゃったんだ。」
「疲れていたんですね。」
沙羅は照れたように笑い、 そっと悠斗の頬にキスを落とした。
真尋が思わず咳き込む。
「ゴホンッ!」
沙羅はビクッと顔を上げる。
前を見ると—— 呆れ顔の真尋と、頬を真っ赤にして固まるマネージャー。
「お、おにぃ!? いつからそこに……!? マネージャーまで、どうして……」
真尋はため息をつく。
「マネージャーさんは、お前を心配してここまで来てくれたんだぞ。」
沙羅は立ち上がり、深々と頭を下げる。
「マネージャー、ごめんなさい……勝手なことして……」
「ほんとにもう…… でも、元気な沙羅ちゃんに戻ってくれてよかった。」
「明日も伊勢で撮影だけど、いける?」
「はい、大丈夫です! ……あっ、今日って金曜日ですよね?」
「え? うん、そうだけど?」
沙羅はぱっと悠斗の方を振り向く。
「悠斗くん、土曜日と日曜日……予定ある?」
「えっ……ぼ、僕は、特に……」
沙羅はふわりと笑って言った。
「マネージャー、悠斗くんも伊勢に連れていっていい……?」
「えっ——!?」
悠斗、真尋、マネージャー、三人同時に叫んだ。
ーー数分後。
マネージャーが電話で交渉している。
「はい……はい、ありがとうございます……! ——大丈夫だって。」
沙羅は両手を胸の前でぎゅっと握りしめて跳ねた。
「やったーーっ!」
悠斗が不安げに真尋の袖をつまむ。
真尋「……俺に一緒に来いってか。」
悠斗、こっくりうなずく。
「ぼ、僕……めちゃくちゃ人見知りなんです。」
ーー翌朝。
大阪難波駅。
早朝のホーム。
賢島行きの特急に乗る前、四人でコンビニに寄る。
菓子、飲み物、車内で読む雑誌。
電車が走り出すと、窓から差し込む朝日が沙羅の横顔を照らす。
四人は座席を囲み、トランプで盛り上がる。
まるで修学旅行のような、温かくて特別な時間。
ーー伊勢志摩。
海辺の撮影現場。
パシャッ、パシャッ。
カメラマンの声が響く。
「沙羅ちゃん、すごくいい! その笑顔……最高だよ!」
潮風に揺れる髪。
海に反射する光にきらめく瞳。
その姿を、悠斗は胸を高鳴らせながら見つめていた。
(……綺麗だな。)
真尋は横で、静かに目を細める。
休憩時間、沙羅が駆け寄ってくる。
「悠斗くん、どうだった?」
「あ……はい。めちゃくちゃキラキラしてました。」
沙羅は照れくさそうに頬を赤らめる。
カメラマンが二人のやりとりを見て、感心したように言う。
「あの子が、沙羅ちゃんの“光”なんだね。
一瞬で笑顔になるなんて……すごいよ。」
マネージャーもうなずく。
ーー休憩時間に入る。
ーートイレから戻る悠斗。
女性スタッフのひそひそ話が耳に入る。
「あの人が沙羅ちゃんの彼氏……?
もっとイケメンかと思った……全然釣り合わないよね。」
胸がズキッと痛み、悠斗は俯く。
(……やっぱり、僕なんて。)
そのすぐ後ろから、沙羅が歩いてくる。
女性スタッフに声をかけられる前に—— 沙羅が低い声で言い放つ。
「ねぇ……あんたたち、悠斗くんの何を知って言ってるわけ?」
女性スタッフは凍りつく。
「そんなに自分がすごいつもり? ……二度と、彼を笑わないで。」
「も、申し訳ございません!」
「怒られるのは覚悟で言ってる。 ——悠斗くんを侮辱する人は、許さない。」
まるでライブステージのように、 強く、凛とした“ボーカルの沙羅”だった。
悠斗は胸がじんと熱くなる。
(……沙羅さん。)
彼は小さく息を吸い、心の重さが少しずつ溶けていくのを感じていた。
ーー第16話につづく。
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