第7話 ー 初恋 ー

* * *


――デートの3時間前。


沙羅(さら)の通う高校。


教室の窓際で、沙羅はいつになく楽しそうに話していた。


沙羅「でね、おにぃがそいつをやっつけたのよ」


その様子を、隣の席の尚子(なおこ)がじっと見ていた。


尚子「……沙羅」


沙羅「えっ、なに?」


尚子「最近のあんた、すっごく明るいわね」


沙羅「そう?そうかな?」


尚子「なんかあったでしょ。彼氏といいこととか?」


沙羅「やめてよ、もう別れたよ」


尚子「えっ、また?あんた本当、長続きしないわよね」


沙羅「だって……カッコつけるだけでつまんないんだもん」


尚子「最初の彼氏は3ヶ月、次は半年、今度は1年……まあ伸びた方か」


沙羅「一応がんばってみたんだけどね」


尚子、じっと沙羅を見る。


尚子「ねぇ、あんたさ……本気で男の人を好きになったこと、ある?」


沙羅「えっ?“好き”って?」


尚子「恋をしたことがあるかって聞いてんのよ」


沙羅「恋……かぁ。よくわかんない」


尚子「はぁ……あんた綺麗なんだから自覚しなさいよ。学校に男なんていっぱいいるし」


  「まあ、お兄ちゃんがイケメンだから見る目が厳しいのかもね」


沙羅「え?おにぃが?どこが……?」


尚子「あんた、たまに感覚バグってるわ」


沙羅は少し考え込む。そしてぽつりと。


沙羅「……あ。でも、一人だけ気になる人はいる」


尚子「は!?だれよそれ!」


沙羅「その人の笑顔見るとドキドキするし、会えないと寂しいし、涙を見ると胸が苦しくなるっていうか……」


尚子、食い気味に。


尚子「それ!それが恋!!」


沙羅「えっ……(顔を真っ赤にする)」


尚子「もし、その人に彼女がいたら? 他の女の子と仲良くしてたら?」


沙羅、切なそうに目を伏せる。


沙羅「……悲しい」


尚子「ほらね。あんた、完全に恋してるわよ」


沙羅「……///」


尚子「その人の写メは?」


沙羅「ない……」


尚子「番号は?LINEは?」


沙羅「……交換してない」


尚子「元彼とは交換したんでしょ?」


沙羅「向こうから言ってきたから……でももうブロックした」


尚子「はやっ!じゃあ、その“気になる人”に自分から言える?」


沙羅「む、無理……断られたら嫌だもん……」


尚子「そこ乙女なんかい!!」


尚子「で、その人は積極的? 奥手?」


沙羅「奥手……かな」


尚子「じゃあ、今日あんたから誘いなさい。番号もLINEも」


沙羅「えぇぇーーーっ!!?」


* * *


――なんばの街。


人混みの中、沙羅と悠斗(ゆうと)が並んで歩いていた。


沙羅(心の中)

(本当に……誘っちゃった……)


悠斗「沙羅さん、どこまで行くんですか?」


沙羅「……!!(なにも考えてなかった!)」


悠斗はきょろきょろと店を見回し、


悠斗「……あのお店、空いてそうですよ」


沙羅「あっ、うん……!」


* * *


――カフェ。


まさかの沈黙。

二人とも、緊張で言葉が出ない。


周囲の小声が聞こえてくる。


「めっちゃ可愛い……モデルかな」

「え、彼氏?釣り合ってなくね?」


沙羅(心の中)

(携帯番号……LINE……聞かなきゃ……

 なんでこんな緊張してるのよ私……)


悠斗「今日、どうしたんですか?」


沙羅「えっ……あ、その……」


うまく言葉が出てこない。


悠斗「これ飲み終わったら、帰りましょうか?」


沙羅「や、やだっ!!」


悠斗「えっ……今日の沙羅さん、なんか変ですよ」


沙羅、顔を真っ赤にして両手で顔を覆う。


(どうしよ……どうしよ……!!)


沙羅(心の中)

(勇気を出すの……!)


沙羅「……あのっ」


悠斗「はい?」


沙羅「(うつむいて、小さな声で)

 ……携帯番号と、LINE……交換してくれる?」


悠斗「えっ、はい!喜んで!」


沙羅の顔がぱっと明るくなった。


二人はゆっくりと携帯を交換する。


沙羅のスマホに

《朝霧 悠斗》

の文字が表示される。


それだけで胸がいっぱいになった。


悠斗「沙羅さん」


沙羅「は、はいっ」


悠斗「入院していた間、毎日来てくださって……本当に、ありがとうございました」


沙羅(心の中)

(だめ……こんなの、好きになる……)


沙羅「(小さい声で)悠斗くんの力になれて……良かったです」


悠斗「それで……沙羅さんにお礼がしたくて。今度の土曜日、もしお時間あれば……」


沙羅「えっ、ふ、二人で……?」


悠斗「はい。真尋さんにも相談したんです。“妹を頼む”って」


沙羅(心の中)

(え、これ、デート、だよね……どうしよどうしよどうしよ……!!

 おにぃーーーっ!!)


* * *


――第8話へつづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る