第2話 ー 沙羅との出会い ー

* * *


――大阪・道頓堀。


観光客のざわめきの中、ひとりの女性が振り向いた。


長い黒髪。

圧倒的な美人。

街の誰もが二度見するほど。


「ねぇ、あの人…誰?」

「めっちゃ綺麗…」


沙羅(さら)は看板の前で、スマホを見ていた。


そこへスーツ姿の青年が近づく。


彼氏「沙羅」

沙羅「あ、浩太(こうた)くん」


彼氏「いい加減“くん付け”やめろよ。付き合って一年だぞ?」

沙羅「うん…慣れなくて」


彼氏は当然のように沙羅の肩を抱く。

周りの視線が再び集まる。


「似合ってるわ、あの二人」

「こんな美人には、イケメン彼氏だよな」


沙羅は、どこか嬉しくない表情をしていた。


彼氏「モデルの初撮影、どうだった?」

沙羅「緊張した…けど、まあ…」

彼氏「お前と付き合ってるって言ったらさ、友達、めっちゃ羨ましがってたよ」

沙羅「……広めなくていいのに」


彼氏はまた肩を引き寄せる。

沙羅は視線をそらした。


* * *


――夜の公園。


ランナーが行き交う中、沙羅は汗を拭きながら息を整える。


ふと、視線の先。


ベンチに座る一人の少年。

愛犬を連れて散歩中の――

悠斗だった。


沙羅「あら…あなた」

悠斗「えっ…」


昨日、駅で切符を拾ったあの少年。


悠斗「あの時はありがとうございました」

沙羅「あなた、この近くに住んでるの?」

悠斗「はい…(また会えた…やっぱり綺麗な人だな…)」

沙羅「この子、男の子?」

悠斗「はい。5歳で…すごく優しいんです」


悠斗が笑った。


あの時と同じ、柔らかい光。


沙羅の胸が、ほんの少し熱くなる。


沙羅「じゃあ、またね」

悠斗「はい!」


沙羅は頬を赤くしながら走り出した。


* * *


――悠斗の帰宅。


母「おかえり。顔が嬉しそうね」

悠斗「うん、すごく綺麗な女性と話せたんだ」


母は微笑み、悠斗の背中をそっと見守る。


自室。

愛犬を膝に乗せ、悠斗は公園の女性――沙羅のイラストを描いていた。


(また会えるかな…)


淡い期待が胸を温めた。


* * *


――翌日。体育館。


ドンッ!


背中に重い衝撃。

プロレス技をかけられ、床に押し倒される。


悠斗「いた…っ」

「うるせぇ、黙れよ」


笑い声。

殴られる音。

そして、誰も止めない。


涙は出ない。

ただ、心が痛い。


* * *


――授業中。


ピィ――。


教室に響く口笛。」


先生「誰だ?今口笛を吹いたやつは。


誰も答えない。


先生「お前ら、目を閉じて、音がした方向を指させ!」


全員が指を伸ばす。

その指の先は――悠斗。


悠斗は誰も指さなかった。


(誰のせいにもしたくない…誰かが怒られるのは嫌だ)


先生「朝霧(あさぎり)、全員がお前を指した。後で職員室に来い」

悠斗「ち、違…」

先生「言い訳するな」


クスクスと笑うクラス。


悠斗は、静かにうつむいた。


* * *


――夕方の公園。


今日も沙羅は走っていた。

ふと、公園のベンチに目を向ける。


(…いる。)


愛犬を抱きしめながら、静かに泣いている悠斗。


(…。)


悠斗の涙に沙羅は胸がぎゅっと締めつけられた。


沙羅「…あの」


声をかけた瞬間、悠斗がビクッと顔を上げる。

涙を拭き、必死に笑おうとする。


沙羅、心が苦しくなる。


沙羅「何か、あったの?」

悠斗「な、なんでもないです…!」


悠斗は愛犬を抱き上げ、その場を走り去った。


沙羅「……」


胸の上にそっと手を置く。


(なに…この気持ち)


* * *


――翌日。高校。


沙羅は兄・真尋に弁当を届けに来た。


その美貌に、校内がざわつく。


「誰あの子…?」

「やばい、めっちゃ可愛い」


沙羅「あっ、いた。」

  「おにい、お弁当忘れてるよ」

真尋「わりぃ。」

兄の友人「よう、沙羅ちゃん。」

沙羅「こんにちは。」


兄の友人「お前の妹、相変わらず綺麗だな」

真尋「妹に手出したらぶっ飛ばす」

「お、おう…」


そんな中、学校を出ようとした時、

沙羅はふと視線を向けた。


そこには――


鼻血を流しながら、3人の不良に囲まれる悠斗の姿が。


沙羅の足は止まった。


沙羅(心の中)

(あの子。どうして…こんな…)


* 第2話 完 *


* * *



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