🎧 白いベンチの原罪(スリー・ノート・バラード)

Tom Eny

1.ストリートの均衡

1.ストリートの均衡


夜の駅前。冷たい風にギターの音が震えていた。「トリニティ」の歌声は、まだメジャーの光を知らない。歌うアオイの吐く息は白く、ライブを終えたばかりの三人は、顔を見合わせて大笑いした。


金がなく、三人で一つだけ分け合ったコンビニのおにぎりが、やけに美味しかった。アオイが歌詞を間違えては、ユウキ(ギター、作詞作曲)とタクミ(ギター、ハーモニカ)が揃って冷やかし、また三人で無邪気に笑い合う。あの頃の笑い声には、何の打算もなかった。タクミには、彼らが奏でる音色が、木漏れ日のような、家族の温かい光に包まれているように感じられた。


タクミはユウキのメロディを、誰よりも**「人類に必要な光」だと信じていた。高校時代、初めてユウキの曲を聴いた日、三人は駅前の「白いベンチ」**で誓い合った。


「お前が書きたい曲、全部書けよ。俺が横で支える」


ユウキは、タクミの肩を叩いて笑った。「ああ、任せるよ。でもな、お前が俺の曲に口出しすることはない。俺の才能を信じて、ただそばにいればいい」


その言葉には、献身を**「従属」として定義づける、ユウキの無邪気な傲慢さ**が潜んでいたが、タクミは気にしなかった。才能ある者を支えることは、自分自身の存在証明でもあった。その誓いは、今も彼の心臓を縛る鎖だった。


そして、もう一つ、別の鎖があった。アオイへの愛だ。


ある大雨の夜。駅前の屋根の下、ユウキが次のライブの準備のため席を外した一瞬。アオイは、ユウキの才能へのプレッシャーと、自分の歌声の未熟さに涙を流した。タクミは、幼馴染として彼女の濡れたTシャツの冷たさを感じながら抱きしめた。その瞬間、二人の心が永遠に友情には戻れない場所へ行ったことを、二人は知ってしまった。彼らの愛は、誰にも言えない秘密、バンドを崩壊させる**「原罪」**として、白いベンチの記憶と共に横たわった。

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