とある伯爵の独り言
私には三人の子供がいる。
一人は優秀な人材で何をしてもそつなくこなす、実に自慢の長子である。
もう一人は、この子もまた優秀で、何をしても優雅にそつなくこなす、目に入れても痛くないほど可愛がっていた、末の長女。
歳若いうちに優秀な貴族に見初められて嫁に行ってしまったが、最初のうちは渋っていた。
なんでも「お兄様ほどではない」というのだ。
いやはや、優秀な兄を持つと見る目が厳しくなる、というがまさにその通りになってしまって、その時ばかりは頭を悩ませた。
私は、特に政略で結婚させようとは思っていなかったが、お声がかかったのは家柄も能力もある、国随一ともいえる貴族の息子で、彼もまた優秀な人材であった。
一も二もなく話を進めたのだが、長女が頑として「お兄様より優秀ではない」といって聞かないので、ほとほと困りはててしまった。
様々な会見や茶会などを催して、どうにかこうにか嫁がせることに成功はしたのだが……
さて、困ったのが次男だ。
次男は多分「やれば出来る子」という部類の人間なのだろうが、いい年になっても官職にもつかずぶらぶらと遊び呆けている。
放蕩息子、あるいは道楽息子、というべきか。
しかも貴族という身分を忘れて、身分の低いものを見初めてはルンルン気分で帰ってくるのだから困ったものだ。
手を回すほうの身にもなって欲しい。
毎度毎度タレ込みがあって、その度に金を使う事になるのだ。それにしてもあのタレ込みは一体どこから……
まぁ、次男が間違った方向へ行くのを防ぐ事ができているのだから良いとしよう。
――ある日の事だが、突然私の耳にそれが飛び込んできた。まさに寝耳に水の出来事が、である。
私はほとほと困ってしまった。
さすがに何かの間違いではないのか、と。
間違いではない、といわれ、愕然として頭が真っ白になってしまった。
これは、一大事である。
下手をすれば我が家始まって以来の危機ともいえる。
まずはどうすればよいのだろう、全く考えが浮かばない。
セッティング、いや茶会を――それともパーティか?
いや、その前に説得をしなければなるまい。
もう夢を見るのはやめて、現実に生きるべきだ、と。
そして――彼女を見据えるべきだと。
そして出来れば、間違いであったと、言って欲しい。
実際に私も未だ信じられぬし、間違いだと思っている。あるいは勘違いだろう。
とにかく困ったものだ……
今日もあいつは出かけている。
――本当に困ったものだ……
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