元SSS級最強冒険者、呪われアパートの大家になる 最強住人だらけの不労スローライフ

テマキズシ

第1話 天啓を得た


 ある日突然、俺は異世界に転生した。


 前世最後の記憶は、トラックに引かれそうになっている子供達を庇った所。

 きっとそこで俺は死んだんだろう。


 今の俺は佐藤一郎じゃない。この世界での俺はジャック・スティンガー。名前をつけられた時はかっこよすぎてチビッてしまった。


 赤ちゃんだったからね。しょうがない。うん。しょうがない。


 まあ話を戻して、それで異世界に転生した俺はそこで奇跡を見た。

 あれは5歳ぐらいの頃、俺のいる村をゴブリン達が襲撃した。村にいた衛兵達は敗れ、もうどうしようもないと諦めかけていたその時!!!


「もう大丈夫だぜ。坊主」


 冒険者が現れたのだ。彼らはゴブリンの群れを次々と撃退し、村人を救ってくれた。

 あの時のことは今でも思い出せる。色褪せることのない記憶。その時俺は決めた。俺は冒険者になるぞ…と。


 両親は最初は危険だと言って、俺の夢を否定した。けれど何度も何度も必死に説得してようやく許可を得れた。それからは必死で特訓し10歳の時、俺は成人し冒険者となった。


「さあやるぞー!!! 世界最強の冒険者に、俺はなる!!!」











「冒険者辞めてええええええ!!!!」


 だが……現実は厳しかった。


 まず武器や防具の損傷が激しい!!

 敵が強ければ強いほど、どんどん壊れて新しいの買いなおさなければいけないし…。


 次に遠方の村は差別が酷かった。

 助けに来たのに「騎士じゃないのかよ」「野蛮な冒険者風情が」って!!!


 じゃあお前がやれよ!!! 竜を倒せんのかコノヤロー!!!


 まあ実際に冒険者の質は悪い。殆どが馬鹿すぎて騎士の試験に落ちちゃうような奴らの集まりだからね。

 大体チンピラの集まり。俺のような人間は少数だった。


 それでも諦めず俺は戦った。憧れの冒険者のように、人々を助けていった。幸い冒険者には騎士とは違う柔軟性があった。チームじゃなく個人だからこそできる事がある。強い冒険者になれば国の命令も蹴って大丈夫だったし。結構楽しい日々だった。



 ……でもね、やっぱり疲れたあああ!!!


 今の俺、ランクSSS冒険者だよ? ランクEが最低でSSSが最高。つまり全冒険者の頂点クラスにまで上り詰めた。しかも世界最年少で。


 まあそれはいいんだけどその分敵が強い…。国を滅ぼした龍だとか、邪神の神獣だとか、人類を滅ぼす殲滅種だとか…。


 何度ボロボロになったことか…。正直言ってもう体はガタがきてる。

 この前戦っている時に腰をやって死にかけたし…。少し走っただけで息がゼーゼー上がっていったし…。看護師さんも辞めていいって言ってたし!!



 …もう休んでも、よくない?

 うん。いいよ。


「……ああ。でもお金ないんだよなあ」


 しかし問題がある。俺は結構散財しちゃうタイプだったからマジで貯金がない。なけなしのお金は約5000万ゴールド。日本円に直して5000万円である。


 ……結構あると思うじゃない?

 

 でも俺力強すぎて通常の物件に住んだら、ふとした時力制御ミスって壊しかねないのよ。認知症になった元冒険者や騎士が家をパンチで粉微塵にしちゃった例が結構ある。


 だからちゃんとした専用の建物を作ってもらわなくちゃいけない…。もしくは既存の建物に住むか…。しかし俺はSSSランク。他の人達より圧倒的に強すぎるから物件もそれなりに値が張る。


 今は冒険者専用の寮に住んでいるからお金無料だが、冒険者を辞めたら追い出されてしまう…。

 でもこれ以上冒険者続けるのもなあ…。モチベないのに続けられる気がしない。


「どうしよっかなぁ…」


 駄目だ。全然いいアイデアが浮かんでこない。ひとまず飯でも食べよっかな。


 ……地味にご飯を高いのばっか食べているのも金の少ない理由なんだよな。前世知識があるせいで美味しいものを食べたくなってしまう。日本人の性というやつだ。


 冒険者寮についている食堂に向かうと、ムキムキマッチョのおっさんが俺を見て頭を下げた。

 確かこの人はAランクはあるんだったか。優秀な冒険者だった記憶がある。


「ジャックさん!! おはようございます!!」


「「「おはようございます!!!」」」


「おう。おはようさん」


 地味にこの感じも嫌なんだ…。最初は自分の努力が認められた感じがして良かったんだが、今はなんか……ね。対等に話せる人が欲しい。もうちょっとフレンドリーに接してほしい気持ちがある。



 …………無理だろうけど。


 いつも通り高級朝定食。昔に比べると普通の定食もだいぶマシになったが、それでも一度この高級の味を覚えてしまったら戻れなかった。っぱ高級だよ!! 高級!!


 高級な味に舌鼓を打っていると、後ろの二人組の会話が耳に入った。


「なあなあ。あの後輩見かけなくなったがもしかして死んじまったのか?」


「ああ、アイツのこと? アイツはもう冒険者止めちまったぞ」


「はあ?! でもアイツ金なんて持ってなかっただろ?! 今はどうやって生活してるんだ!?」


 気になる…。具体的にゆうと冒険者を辞めたあと、どうやってお金を稼いでいるのかが…。

 俺は皆に気づかれないように耳に魔力を込めた。


「なんでもアイツの父親が地主様だったらしくてよ。亡くなった際にアパートをまるまる一つ手に入れたらしいんだ。今は不労所得で楽々生活だとよ」


「かー! そんな軟弱な生活してるからそんなに弱いんだ! 全く雑魚らしい雑魚みたいなアイデアだぜ!」


 そ……それだあああああ!!!!!!!



 俺は飯を流し込み、全力で外へ飛び出す。

 彼らは悪口を言っていたが、俺からしたら天啓の如き内容だった。


 俺はなけなしのお金を胸に、近くの不動産へと向かっていく。今の俺はこの世の誰よりも希望に満ち溢れていた。













 因みにこの後不動産に詐欺られた。1000ゴールドと呪われたアパートしかない。



 どうしよ。








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