第3話 転生と異世界の獣


……ここは一体どこだ?



光も音も一切ない、無限に広がるような闇の中を、俺は歩いていた。


視界は遮られ、前も後ろもわからねぇ…孤独な不安だけが募るばかりよ。

まるで肝試しにきたような錯覚を覚えたね。


(まさかあの世…?いやいや、俺はまだやりたいことあるし早すぎるでしょ…)

そんなことをぼんやりと考えていても、特に何も起こりはしない。


しばらくの間歩き続けたが、不思議と疲れを感じない。

まるでどこかへ導かれているかのように、俺は歩き続けた。


やがて、ある場所にたどり着いたんさ。

すると、そこへぼんやりと誰かの影が浮かび上がってきたんだ。


それと同時にどこか哀愁漂う儚げな声が響いてきてね。


『………ねぇ、そこにいるのは誰…?ここに誰かが入ってくるはずがないのに………貴方は一体誰なの?この世界の人間?幽霊?もしかして……転生者?』


突然の問いに訳もわからず混乱していると、その影は再び言葉を発したんよ。


『まさかだけど……貴方のような高位次元に住まう生命でさえ、この偽の世界に惹かれてきたの…?…………ねぇ、もう、ここに来ないで。そのままあっちの方にも行かないで。今すぐに出ていって…!』


『この世界は桃源郷なんかじゃないわ…嘘と欲望と穢れで溢れた忌まわしい永遠の地獄よ!』


突然、声が荒くなると同時に空間全体が揺れ始めてね。


もうびっくりしたよ。

いきなり怒鳴られるわ、空間は揺れるわで…もう怖いったらありゃしない。


(やばいやばい…確実に死んじまうよ…!)


巻き込まれないように影を背にしてそのまま走る。


追いかけてきてる…。


深海の底から湧き上がってくるような、ねっとりとした『何か』の圧力がすぐそこまで迫ってきていていた。振り返ってる暇はありゃしない。


本能が、『死』を告げていた。


やがて、前方に光が見え始めた。俺は全力を出して走る。

そうして追いつかれる寸前に光に触れることができた。




「いてて…ったく、なんなんだよ…」

痛む体を抑えて起き上がると、目の前には雲ひとつない星空が広がっていた。

住んでいた東京では見られない幻想的な光景に、思わず見入ってしまう。


その時、手に違和感を覚えた。


(なんだこれ…刀?)


両手で持ち上げてみると、それは日本刀だった。

しかし、どこか普通の日本刀とは違うんさ。


かっこいいサイバーチックな機械刀と言った方がまだ良い方かも。


「これ…どこかで見たことあるような…?……あっ!靖国刀か…」


なんでそんな貴重な物が手元にあるんだろう。不思議だなぁ…。


そんな事を思っていると、目の前の森からガサガサという音が聴こえる。

警戒していると黒い影がいきなり、俺の前に飛び出てきたんよ。


よく見ると、地獄から来た亡者みたいな、すげぇ見た目をした化け物だった。

背丈は俺の倍以上あり、手にはぶっとい棍棒が納められている。


亡者は目の前にご馳走が現れたと言わんばかりに、荒い息で涎を垂らしながら。

目をギラギラと光らせて隙を狙っていやがる。


「おっ…こりゃ、機械刀こいつの威力を試す良い機会だな」


柄に手をかけて、抜刀の形をとる。

そして、俺は漆黒の鞘に収まった刀にゆっくりと指をかけた。


――まるで、怒れる荒神を閉じ込めた檻の門を開けるかのように。


刹那、俺は腰を捻り、刀を水平に抜き放つ。


刀は高圧電を固めたような鮮やかな紫電を纏い、星空とマッチして最高の雰囲気となっていた。


俺は刀を構えて、間合いを取った。

今、すべての理不尽を焼き尽くさんと待機している。


「…さぁ、やろうじゃねぇか!かかってこいやぁ!」

その瞬間。俺の言葉に呼応して、化け物が大地を揺るがすほどの咆哮をあげた。

いきなりの咆哮にびっくりしたけど、ここで怯むわけにはいかねぇ。


もう後には退けない。みっともなく退くよりかは、全力で挑んで負ける方がいい。


俺が怯まないとわかった化け物は、今度は棍棒を振り翳して、雄叫びをあげながらすごい勢いで走ってやがった。


俺は全意識を刀に集中させた。

そして、柄を握り込んだ両手を左肩の背後まで引き絞り、刀を肩越しに構える。


光の刃から発せられる唸りが、地面の砂塵を微かに巻き上げる。

刀身の紫電はさらに激しさを増し、空気中の水分を熱で弾く不協和音を奏でていた。


俺はその一太刀に、自身のエネルギーを注ぎ込んで呼吸を整えた。


「……蒼天霜月流そうてんそうげつりゅう第壱式だいいちしき雷紋斬らいもんざん

剣閃が迸り、俺を殺さんとばかりに迫っていた化け物の体が、真っ二つに斬られる。


斬撃が通り過ぎた空間には、物の焦げた匂いと紫の残光が宙に張り付いていた。


一撃を放ち終えた刀を静かに下ろす。

刀身を渦巻いていた紫電は、その役目を終えて静かな光量に戻り、刀身からは湯気が立ち上っていた。


最初の戦いは、俺の勝利で幕を閉じた。

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