9

ソファに押し倒され、大きな手が太腿に這う。


「足りねえなあ」


ニヤリと口角を上げ、目を光らせる狼は、視線を逸らす私の首に噛み付く。


『んっ』


先程の余韻のせいか、甘い声が出てしまう私はもう逃げられない。


「もう濡れてんのか」


下着越しに撫でる彼の手を、両手で掴み抵抗をするも、あっけなく中に入れられる。


『んんっ』


『はぁっ……やっ…ん』


『…んぅ…む、り…』



されるがままな私は、大きな背中に手を回し縋り付く。


そんな私の腰を抱き、ぐっと持ち上げ状態が起こされる。


『ひゃっん!』


彼の上に座る体制で、ズンと奥に入ってきたそれに悲鳴が上がる。


「っっはっ…やべえなこれ」

『やっ……んんっ』


新たな快感に思わず抱きつく私の胸元で、彼の息が荒くなったのがわかる。


「瑞綺っ…キス、しろ」


私を見上げる上目遣いの彼に、不覚にもキュンとしてしまう。


「はやくっ、しろ」


決して自分からはしてこない彼の頬を両手で包み、濡れた唇に噛み付く。


「っっん」


初めて聞く余裕の無い彼の息に、腹部がギュンとなるのがわかる。


「み、ずきっお前…っやめろっ」


あぁ、なんか…楽しいかも。


すでに何回も快感に襲われた身体に余裕は無いが、困った表情の狼に欲情した私は何度も噛み付く。


「あ…やば、いっっ」


グッと私の腰を寄せた彼は果てたのか、私の胸に顔を埋め息を吐く。


「っっはあ……お前…」

『なんだよ』

「怖すぎ」


ーーガブリ


『いっっ!』


怖い呟いた彼は、私の胸にかぶりついた。


『ちょっ!痛い!愁!』

「まだ締め付けてる。ドMかよ」


やめろ!と狼の毛を掴み、剥がした胸元にはくっきりと残る歯形。


『悪魔』


そう吐き、腰を上げ自分から抜くとソファに横たわる。


「煽ったお前が悪い」


低い声が聞こえ何やら後ろで動いているが、気にする余裕は無い。


「お前本当に…ギャップの塊だな」

『褒めてんのかそれ』


私に下着を着けながら言う愁に抵抗できず、されるがまま服を着せられる。


「シャワー、一緒に入るか?」


先程の快楽に溺れる困り顔の彼はもういない。


『いい』


お先にどうぞ、とシッシッと手を振り、疲れた体を労る。


悪魔がいなくなった静かな部屋で時計の針音が響く。


23時!?


そんなに長くしてたのか……。疲れるわけだ。


冬なのに汗ばむ体が気持ち悪くて、愁が出た後すぐに身体を流しに行く。


胸元に付いた噛み跡に、とんでもない狼を恋人にしてしまったとうっすら後悔が湧く……が顔は緩まっていた。



ーーーあんな汚い過去を上書きしてくれたのが、彼で良かった。

同じく汚い過去を持つ彼にそう思ってしまう私も…悪魔なのかもしれない。

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春の狼 珠子 @tokko921

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