4

「…」


睨みながら私に近付く彼に、


『なに怒ってんだ』


そう言ったのが間違いだったか。


「ああ?春都と何を喋ってた」

『べ、別に大した話は…』

「あいつに懐くな」

『春都さんは…!優しいだろ』


安心すると言った言葉は嘘では無い。


「俺は優しくないって?あ?」


コートを脱ぎ床に投げる彼は、私の両腕を掴みベッドに倒し、頭の上で固定する。


『おい、何にキレてんだ。言わないとわかんないだろ』

「…お前、喧嘩売ってんのか?春都にはあんな顔向けるくせに。ああ、あいつが好き、だからか?」


聞いていたのか。


「なあ、お前も結局誰でもいいんだろ」


そう言った彼は、少し悲しそうな顔をしていた。


「優しくされりゃホイホイ好き好き言って、ついて行くんだろ」

『あれは違「ちっ」


私の声を遮り、服の中に手を入れる愁に、自由な足の力が強まる。


「抱く」


そう耳元で言い、私の首を舐める。


『!?ちょっ、と!愁!辞めろ』


急な言動に脳内が混乱し始める。


「黙れ」


制服を捲り上げ、下着を強引にずらした彼にする行動は1つ。


ーードッ


「っっ」


自由な足で彼のお腹を、蹴った。


衝撃で離れた隙に、体を起こしドアに向かう。

私、今どういう顔してるんだろ。


「みず、き」


私の腕を掴む彼の手を振り払う。


『次掴んでみろ。…殴る』


震える声が自分でもわかる。


「…おい、待て!悪かっ」


ーバタン


謝罪の声など聞かず外に出る。

エレベーターに乗り1階へ向かい、服を整えバタバタと外へ出る。


『はぁぁ…』


綺麗な外の冷たい空気を吸い込み、脳へ送る。


なんだったんだ。


犯される、そう危険信号が全身に発せられた。

"恋人"からのこういう行為は嬉しいはずなのに、強引さに過去を思い出し、危険と判断して逃げてきてしまった。


外は真っ暗。

おい、どこだよここ。


「ねーえ!お姉さん?」


ビルの前で立ち尽くす私に、男の声がかかる。


「このビルから出てきたってことは…黒崎組の誰かの女?それともセフレ?」


無視し続ける私の顔を覗き込み、続ける。


「いいねえ、あいつらこんな高校生にも手出せて。でももう終わったっぽいし……俺らの相手もしてくんね?」


肩をガシッと掴まれニヤつく彼に、つい手が出る。


ーードカッ


「うっっ!」


肩にあった手を捻り上げ、そのまま投げ飛ばす。


『ああ、手加減できなくて悪い。気分が悪いんだ』


表情の無い声を出し、床に倒れる彼を見下ろす。


「お前!女のくせに舐めてんじゃねえぞ!」


ああ、2人組だったのか。

初めて聞こえた声に、さらに気分が悪くなる。


私は、近付く彼の胸ぐらを掴み殴る。


「ぐっ……」


ああ、相手にもならない。


「瑞綺」


拳を握り締め見下ろす私に、1番聞きたく無い声がかかる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る