3

信じる…か…。

ついこの間自分からキスをしておいて…あんなに縋っておいて、そんなの答えはひとつに決まっている。

子供な私には、そうするしかないのが分かってて聞いているのだろう。


『するかしないかは愁次第ですから。付き合うってこと自体私にはまだよくわらない、です』


ハハッと乾いた笑いを吐き、大人ぶった態度と裏腹に子供な言葉を出す私に、目の前の春都が困ったように眉を下ろし笑顔を見せる。


『あ、そういえば』


気になっていたことが1つ。

聞くべきか悩んだが、悩みはあまり溜め込みたくない。


「ん?」

『楓さんって、誰ですか』


名前を出した瞬間の、春都さんの顔を見逃さなかった。


「その名前も…あの女から?」

『はい』

「簡単に言うと愁の元カノ、かな。かなり昔のね」

『へえ』

「愁がちゃんと付き合うって中々無かったから……さ」


何かを言いたくなさそうに、声が小さくなる春都さん。

なんとなく言いたいことはわかったが、あの瞬間の春都さんは、驚きと悲しみが混じった表情をしていた。その顔が脳裏に焼き付く。


「瑞綺ちゃんは、愁のこと、好き?」

『はい』

「じゃあ、俺のことは?どう思ってる?」


急な変化球のある質問に驚いたが、素直に答える。


『春都さんも、好きですよ』

「……へ?」

『安心するんです。春都さんがいると』

「安心…か。初めて言われたな」


少し照れたように目線を下に落とす彼の表情を一変させる声が、店内に響く。


「おい」


紛れもなく昨日私が縋った彼の声。


「ここに連れてくるなと言っただろ、春都」

「予定より随分と早いお帰りで…」


入口とは違うドアから入ってきた彼は、鋭い目をして春都を見る。


「凛太郎から連絡が来た」

「あーあ、黙っとけって言ったのに。ほんっと、若一筋なんだからあいつは」

「女に声をかけられたって?」


春都さんは硬い表情からすぐに、柔らかい顔に戻りグラスに何かを注ぐ。


隣に座った愁が私の目をしっかりと捉える。


『やり返そうとしたら、凛太郎に止められた』


いや、止めてくれた、か。


「何でそんな顔してんだ」

『顔…?』

「泣きそうだぞ。いつもの強気な顔はどうした」

『…気のせいだろ』


泣きそう?私今そんな顔してる?


「瑞綺ちゃん、ごめんね。無理矢理凛太郎が連れてきちゃって。僕が指示したんだ」

『いや、春都さんがいて良かったです』


謝る彼に目を移し、素直な言葉を言う。


「ちっ、来い」


席を立ち私の腕を引っ張る愁の背中から、分かりやすく怒のオーラ。


「瑞綺ちゃんをあの部屋に連れて行くつもり?」


あるドアを開けようとした愁にかかる春都さんの低い声。


「あ?てめえに関係ねえだろ」


振り返らずそう言った愁は、強い力で私の腕を握りドアを開け上の階にあがる。


ードンッ


力任せに開けられたドアの先にはベッド。


『ちょっ…』


そこに放り投げられ、反射的に自分を守る体勢をとる私。

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