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「あ、あなたは……!」

「帰りましょう、瑞綺さん」


あぁ、名前なんだっけ。


「ちょっと!待ちなさいよ!今姐さんって言った?噂は本当なの?じゃあ楓さんはっ「黙れ、メス。高校生1人に男2人も連れてリンチか?だせえな」


行きましょう、そう言い車に向かう彼を、今はとりあえず莉紗の腰を抱き追うしかない。


「乗れ」


運転席に乗り込む男の指示に従い、莉紗を先に乗せ自分も座る。


『あ、あの…』

「話は後だ。桜木さんのところへ向かう。……その女はどうすれば?」


横を見れば、涙目で私を見る莉紗。


『先に家まで送ってほしい』


そう言い、莉紗の住所を言う。


『悪い、莉紗。巻き込んで』

「どう、いうこと?巻き込まれてるのは瑞綺じゃないの?」


いや、そうなる、よな。

莉紗には嘘はよくない、か…。


『じじじ、実は、黒崎愁という男の…か、か彼女になってしまいまし…て』

「………彼氏ができた、の?」

『あ、あぁ』

「俺はまだ認めねえけどな」


勇気を振り絞って言った私に、眉間に皺を寄せる莉紗と、不機嫌そうな長髪の声。


「その彼氏が、普通じゃないってこと?」

『や、ヤクザらしい』


だんだん小さくなる私の声。


「……それって、瑞綺は大丈夫なの?」

『あ、あぁ今のところは、なんとか』

「そう……詳しい話は明日聞くから覚悟しておいてよね」


家の近くの景色が見えたのであろう莉紗は、詳しくは聞かなかった。

車が停止し、ありがとうございました、と運転席に声をかけ家の中へ入って行った莉紗。


「ああいう友達もいるんだなお前。真逆じゃねえか」

『うるせえ』

「おい歳上だぞ、敬語使え」

『……なんで、止めたんですか。別にあんなビンタやり返せる』


というか、やり返したかった。


「若に…きつく言われてんだ。誰もお前に触らせるな、と」

『あぁ…愁、が』

「不本意だが、俺が仕えるのは若だから、な。言われた通りにするしかない」


嫌な言い方。


『なあ、名前、なんだ…なんでしたっけ?』

「……凛太郎だ」

『あー…凛太郎、さん』


そんな低い声出すなよ。


居心地の悪いドライブが終わり、連れてこられたのは3階建のビル。

看板には"bar Black swan"の文字。


エレベーターで2階に上がり、薄暗い店内へ入る。


「適当に座ってろ」


そう言うと、瓶がたくさん並ぶカウンターの奥へ消えて行った。


とりあえず、入り口近くのソファへ腰掛ける。


『うわ…』


嫌いなタバコの匂いが、鼻の奥に突き刺さり鞄に入っていたマスクを着ける。


「ごめんごめん待たせちゃって」

『!?は、春都さん』


カウンターから出てきたのは凛太郎ではなく、春都さんだった。


「こっちのカウンターおいで」


春都さんの姿に安心し、言われた通りカウンターの椅子に座る。


「愁には、未成年なんて入れるなって言われてるんだけど…。営業前だし。…秘密ね?」


優しい声の春都さんに、少し笑みが溢れる。


「凛太郎から聞いたよ。男を連れた女に会ったんだって?」

『はい。愁のこと好きな人、ですよね?たぶん。嫌なこと言ってたし』

「あいつの過去は、まあ、真っ黒だから。…嫌なことって?」

『歳下は抱かない……とか』


作り笑いで目線を下げる私に、春都さんが水を差し出す。


「彼女の言うこと…信じる?」

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