8

その後、俺の運転で瑞綺を家まで送り届け、そのまま仕事へ向かう。


途中で千隼を乗せたのが間違いだったか。


「若、まじで"恋人"っつーもんを作ったんですか」


助手席でエナジードリンクを飲みながら、柄にもなく興奮している千隼。


「……」

「なんか黒くて大人っぽかったっすけど、高校生でしたよね?彼女。いいなあいいなあ」

「……お前も充実してるだろ」

「へ!?い、いやぁ……若には完敗ですよー」


なにかを誤魔化そうと頭を掻きながら外を見る彼は続ける。


「でも。お姉様たち怖いっすよ?高校生相手にしてるなんて知ったら。結局はバックがいますからね、あの人たちには。だから若に相手をしてもらえてた」


やっと、まともなことを言い始めた。


「前みたいに、目を離した隙に何されるか」

「何されるか…ねぇ。その前に地獄へ落とせばいい」

「ははっこっわ。若がそう言うとなんか安心ですわ」


安心……。


強気なことを言ったが、実際これから彼女に向かってくる嫉妬や敵対の刃を完全に防げるかなんてわからない。


「まあ、嵐を守ったくらいだから、自分でなんとかしちゃいそうですねー」


そう、それが…怖い。

彼女は自分で自分を守れると自覚している。

そして実際に強い。

ただ……弱点があったのだとしたら。あの過去以外の弱点が。


弱点を突かれたら、人間なんて脆く朽ちる。


「ああいう子も夜はニャンニャンするのかあ。いいないいなあ、羨ましいなあ」


まともな発言が終わったのか、すぐに元の千隼に戻る。


「若、飽きたら言ってくださ「殺すぞ」


飽きるなんて。


恐らく、今まで人から好意を直接向けられたことが無いから、俺の"好き"という言葉を野生の本能で受け取り、返してくれている彼女。

そうでは無いのだとしたら相当な男嫌いだ。

あの反応からそれは無さそう。


求めれば欲しいものは手に入ってきた。

自ら去って行ったものなど無い。

だからこそ、心の読めない彼女の扱いがまるでわからない。

嫌われるようなことをすれば、簡単に去って行ってしまいそうで……。


「はぁ」

「若は歳上好きだったもんなあ。これから悩みが尽きなくなりそうっすね。いいじゃないっすか!思ってるよりも可愛いもんですよ歳下って」

「お前はただのロリコンだろ」


悩みが尽きなくなる……。

その通りだ。

欲のままに生きてきた俺には……あまりにも純粋で無垢。


ーーーさあ。

欲を掻き乱してもらおうか。

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