7

『やっ…んっ』


ビクッとした瑞綺の声に、理性が戻り顔を離す。


「…はっ、悪い。いきなり」


目を潤ませ俺を見上げる瑞綺に、心臓がまたうるさくなる。


『あ……いや。だ、大丈夫…それより、も……』

「!!」


もっとキスしてほしい…と俺の目を見て言う瑞綺に、自分が驚いたのがわかる。


「あぁ、喜んで」


自然と口角が上がり、もう一度彼女を喰う。


というか……これは喰らい合い。


本当に恐ろしい。

もうすでに俺に答えている彼女の舌。

これを外に放っていいものなのか。

好きと言われたらホイホイ着いて行って、こんなキスをしてしまうのではないだろうか。


「っはっ…」

『…ん』


2人の混じり合った息が、部屋に響く。


お互いを貪り合い、満足気な表情の瑞綺と向かい合う。

野生の彼女の行動は全く読めない。


「おっまえ……絶対そんな顔外ですんなよ」


初めて会った時とは考えられないくらいエロい顔をする彼女に、独占欲が湧く。


『どんな顔だよ』


間違った考えであろう瑞綺は少しムッとする。


「頼むから。な?…はぁ、他人の好きは絶対に受け取るなよ?」


分かっていない彼女に、らしくもないお願いをする。


『あ?…あぁ、蹴散らせばいいんだっけ?』


先ほどの俺の言葉を似せて言う彼女に、緩んだ顔が戻らない。


ーブーッブーッ


甘い空気の中で、瑞綺の携帯が鳴る。


『……』

「出ろ、大事な用事かもしれないだろ」


そう言うと、俺の上から離れ携帯を耳に当てる。


『あぁ、旬。………今?……いや、来週くらいなら行ってやってもいい。………ははっ当たり前だろ。…………そんなの私じゃなくて染谷に頼め。………兄貴?知らねえよ。…………あーはいはい。じゃ』


はぁ、とため息をつき携帯を鞄にしまう彼女に…


「男、か?」


人生で初めて言う台詞を吐く。


『ん?あぁ。クラブ仲間。受験が終わったお祝いをしてくれるんだと』

「……」


行くのか?と言いたかったが、さすがに縛り過ぎか、と黒い言葉を飲み込む。


先ほどの甘い顔はすでに無くなり、いつも通りの彼女が俺を見る。


「そろそろ帰るか?送る」


受験という言葉に、そういえばまだ高校生だったと脳に伝え、もう一度あの雰囲気をという欲を抑える。


『あ、あぁ。そう、だよな。かえ、「なんだ、寂しいのか」


ぎこちない返事に、早くも欲が出る…が。


「悪いな、これから仕事だ。家まで送る」


約束の仕事まであと1時間を切ってきた。


『わかった』


そう言うと、瑞綺は鞄を持ちジャケットを羽織る。


「道着ってエロいんだな」


ボソッと呟く俺に、あ?と喧嘩腰の声がかかる。


「お前はキスをしないと、ああなれないのかよ」

『何言ってんだ1人で。仕事あんだろ、行こうぜ』


さっきまでの彼女はどこへ行ったんだ。

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