5
side愁
正直、この瑞綺という女にビビっている。
受験が終わったであろう彼女に会うため、早めの時間から繁華街をうろつく俺に刺さる視線。
春都を連れて来るべきだったな。
クラブの前で待てばすぐ会えるのに、変に騒がれ嫌われたら、と、わざわざこんな人混みで待つ自分に苦笑する。
おい、早く来いよ。
「しゅーうー!構ってよ、久々でしょ?」
あれから一切の夜の遊びを辞めた俺に、過去の女が声をかける。
面倒。
「ねえ、しゅうってばー!」
あぁ。
彼女以外の女に接するのがこんなに面倒だとは。
以前まで何も感じなかった甘ったるい匂いが、臭いとすら感じる。
強引に口を寄せた女に、失せろ、と言い、彼女に会う前に、とタバコを手に取る。
『愁』
待ち侘びた声。
顔を上げれば、凛とした顔で近づいて来た彼女は、俺の持っていたタバコを奪い…
!?
キスをした。
あ??
彼女は、こういう行為は恥じらいがあって、自分からは絶対にしない…。
そう勝手に思い込んでいた俺の思考が、変に回る。
ふっと笑い俺を見上げ余裕そうな彼女の腕を掴み、路地裏に連れて行くと、華奢な肩を壁に押し付ける。
『っっなんだよ』
「お前こそ…久々に会ってキスなんて。そんな煽りどこで仕込まれた」
余裕な行動をした彼女に、他の男にもしているのか、と低い声が出る。
『は?嫌だったならそう言えよ』
俺の考えなど1mmも理解していない彼女は的外れな答えを出す。
「嫌なわけねえだろ。急に何だって話だ」
『したくなったからしたんだ、悪いかよ』
したくなった?だ?
こいつ。
初々しい野生の虎かよ。
出会ったことの無いタイプに扱い方がわからない。
それから春都が車の中でも余計な事を言い、野生な彼女を煽る。
『毎日…見張り?…ニヤニヤ?……へえ』
そう言いながら近づいて来た彼女は、この状況を楽しんでやがる。
「だ、ま、れ」
近付いてきた体に、少し緩む顔を必死に真顔に戻す。
『会いたかったんなら連絡くらいしろよ』
「受験は邪魔できねえだろ」
『今日の話だ。きょ、う』
「会いに行ったら、てめえが変な気起こしたんだろうが。あの初々しさはどこへ行った。あ?」
『変だと?恋人同士がしたら変なのか?あのセクシーなお姉さんは良いのに?意味わかんねえ』
なんだこの会話。
兄弟喧嘩かよ。
彼女から聞こえた"恋人同士"という言葉に、ふいにドキリと心臓が鳴り、その後の言葉が耳に入ってこない。
春都の着いた、という言葉にそそくさと車を出て本家に入り、スーツから着物に着替える。
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