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「「「はっ」」」
低い声に、男たちが声を揃え頭を下げる。
その非現実的な光景に圧倒され、正座のせいで痺れた足もどうでもよくなる。
「本題終わり。仕事に戻ろうか」
「「「失礼します」」」
春都さんの声に、部屋を出る男たち。
ゆっくりして行ってね、と笑顔を向ける春都が最後に戸を閉め、2人になった空間。
「受験、お疲れ」
隣からぶっきらぼうに呟かれた声は、私の方を向いていない。
『あ、ああ。ありがと、う』
前を向いたまま呟きながら、足を崩し体育座りになった私を……
ードサッ
押し倒した、彼の目は感情が読めない。
「……はぁ。で?さっきの手慣れたキスはなんだ」
『……まだそれ言って』
「つい最近までしたことなかったくせに」
眉間に皺を寄せる彼。
ああ、なんだか。
これも意外なことに、小さいことに粘着質な狼だ。
『したかったからしたって言っただろ。"恋人"ってそういうもんじゃねえのかよ。あの女は良くて、私は駄目なのか?』
嫌な光景が脳内にチラつき、口調が荒くなる。
両腕が彼に組み敷かれているせいで、一発殴りたかったが叶わない。
「あんなのキスのうちに入らねえだろ。………ああ、妬いたのか」
何かに納得して口角の上がる彼に、自分でもわからない感情が解き明かされる。
『そういうのよくわからないけど、経験豊富な愁が言うんだったらそうなんじゃねえの?』
余裕そうな彼にイラつき、知りもしない適当な言葉で言い返す。
「……ふっ。キス、しろよ」
私の腕を解放し、目の前で胡座をかく。
「したいんだろ?」
余裕そうな表情が、私の中の嫉妬、という先ほど知った感情を沸かせる。
私は体勢を起こし、あの女の真似をして彼の首に手を回し唇を寄せた。
重なるだけで顔を離した私を、狼は逃がさない。
『っんん』
ーちゅ
『っんっはぁ』
ーちゅく
空気を求めて開いた口に、舌が入る。
『っんぁ……しゅ、ぅ』
ーちゅくり
「…たまんねえな」
子供な私は、大人なキスに腕を回すので精一杯で、彼の甘い言葉は耳に入らない。
ーちゅく
『んんっ…はっ』
唇から離れた彼は、私の首に顔を埋める。
『しゅ、う?』
息を整える私は、力が抜け両腕がブランと下がる。
「本能…か。怖えな」
首元で呟く息がくすぐったくなり、身体をよじる私を抱きしめる彼から、心臓の音が伝わる。
『心臓、うるせえぞ』
「黙れ」
からかうような私の声に、低い唸り声がかかる。
「お前からの嫉妬なら大歓迎だな」
『それはつまり、これからも他の女とキスをすると?』
「あ?してほしいのか?」
『……い、嫌だ』
「ふっ…、悪かった。次からは蹴散らすから安心しろ」
ーーーなんだっけ。
勉強の合間で調べた"恋人"ってこういうもんだっけか。
"恋人____恋しく思う相手"
私がキスをしたのは…恋しく思うから、ということでよかったのだろうか。
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