恋人

1

side瑞綺


『お、おわったあああああ』


前途多難な1ヶ月を乗り越え、やっっと昨日受験が終わった。


「お疲れ様、瑞綺。これで俺の後輩だな」


クラブ終わりにロビーのソファで伸びをする私に、旬がペットボトルを投げる。


『受かれば、だろ』

「A判定だったんだろ?余裕じゃん?」

「A?!疑っていたが、お前本当に頭良かったんだな」


道着姿の染谷が、汗を拭きながら近付いて来るなり失礼なことを言う。


「まあ?これでウチの姫の悩みがひとつ終わったので?」

『……で?』


ニヤニヤしながらいう旬を、睨みながら水を飲む。


「打ち上げしようぜーーー!」

『結果が出たらな。じゃ、お疲れ様。帰る』


ジャケットを羽織り、染谷の笑い声と旬のおーい!と呼ぶ声を無視し、外に出る。

19:30、か。携帯の画面の通知はどうでも良い内容ばかり。


あの日から1週間、愁に会えていない。

……連絡も、無し。


恋人ってこういうもん、か?

まあ人それぞれか。あちら様は大人だしな。

自問自答しながら、繁華街に足を進める。


今日も今日とて、騒がしい。

目線を下に落としながら歩いていると…


「しゅーうー!構ってよ、久々でしょ?」

「…ちっ」


知った名前を呼ぶ女の声と…知った舌打ち。


声のした方をバッと見れば、会いたかった姿…


『っっ!』


…に、セクシーな服を着た女が抱き付いていた。


行き交う人の波でこちらは見えていないのだろう。

立ち尽くし、2人をガン見する私の耳に声が届く。


「ねえ、しゅうってばー!」


女は抱き付くのをやめ、彼の首に両腕を回し…


キスをした。


ーーーズキッ


「おい、いい加減にしろ、人を待ってんだ。失せろ」


適当にあしらうように、シッシッとする彼に、つまんなーいと離れた女。


イラつく様子で自販機にもたれかかり、タバコに火をつける彼。


『愁』


何の迷いもなく近付き声をかける私は、駆け引きは向いていないのだろう。

ただ…胸がキリキリと音を鳴らす。


「……瑞綺」


ハッと私の方を見る彼に、どんどん近付き持っていたタバコを奪う。


「…!!」


そして、顔を寄せ唇を合わせた。


『こんなとこで何してんだ』


スッと離れ口角を上げる。

愁は何度か瞬きをし、私の腕を引き路地裏に向かい始める。


『ちょっ』


人の声が聞こえなくなったところで、私の手を離した。


ーグイッ


『っっなんだよ』

「お前こそ…久々に会ってキスなんて。そんな煽りどこで仕込まれた」


私の肩を壁に押し、髪をかきあげながら低い声を出した愁に、キリキリしていた胸の音が変わる。


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