11

『こんなにあるってことは、愁も本が好き…なのか?』


読んでいた本を元の位置に戻し、他の本たちを眺めながら聞く。


「まあ、な。学生の時にかなり読んだ」

『へえ…意外』

「どれが気になった?持って来い」

『んーーー』


読み聞かせでもする気か?

絵本を読む前の父親っぽい発言に苦笑しながら、先ほどの本を手に取り愁の隣に座る。


「お前もかなり意外だな。そういう小説が好きなんて」


愁を見れば、優しい目で私の髪を触っている。


目線の先を下に落とせば、肩に墨が見え咄嗟に聞いてしまう。


『そ、それ、なんの模様?』

「あ、ああ。サザンカだ」


右肩に3輪の花。


「ひたむき、困難に打ち勝つ」

『…花言葉か。…ロマンチックだな』

「意味は大事だろ?」


口角を上げ、スウェットを着た。


「寝るぞ」


私の持っていた本を掴みテーブルに置き、立ち上がる愁に、おやすみ、とソファに横になる。


「おい、なに寝転んでんだ。そんなところで寝させるかよ」


私を見下ろし呆れながら言った愁は……


担いだ。


お姫様抱っこなんて可愛いものでは無い。


『ふぇ?!ちょっ、歩く!歩くから降ろせ!』


本気を出せば足蹴りできる体勢だったが、そんな余裕は無く、されるがままの私を運びドサッとベッドに放り投げた。


『っぶっ』

「お子様は早く寝ろ」


枕にぶつけた鼻を撫でながら睨む私に、布団をかける。


私の隣に横たわり、じっと見つめてくる彼に、


『そっちこそ寝てくれ』


視線が痛くて寝れない私。


「あ?キスして欲しいって?」

『ひと言も言ってねえよ』

「お前のその口調は産まれた時からなのか」


キスからの話題変換に睨む目が逸らせない。


『お兄ちゃ、んのせいだ』


普段は名前で呼ぶが、敢えて慣れない呼び方をしてみる。


「ああ、兄貴…か」

『愁は、兄弟、いるのか?』


気になる。


「弟が1人」

『似てるのか?』

「どうだか…。なんだ興味あるのか?」


想像ができなさすぎて、興味が湧いてきた私に、少しむくれた声がかかる。


「やめろ。妬くぞ」


ストレートな言葉に目が大きくなる。


「寝ろ。襲われたくなかったらさっさと」


そう言って仰向けになり、腕で目を覆う愁。


『お、襲う…!?寝る。おやすみ』

「ああ、おやすみ」


強引に目を瞑り、気が飛ぶのを待つ。


ーーー狼の我慢が爆発したら、どうなるのだろう。

そのときはきっと、寝ることさえ許しはされない。


ああ、怖や怖や。

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