9

side瑞綺


中学生ぶりに、涙を流した。

こんなこと、ただでさえ人に話せないと思っていたのに、好きになった人に話すなんて。


いずれ話さなければいけない日が来るとするのなら、タイミングは今日で間違っていなかっただろう。


「悪かった。俺が思い出させちまったな」


「安心しろなんて言って悪かった」


愁の柔らかい声と、抱きしめてくれる腕でそう確信した。


俺の家に来るか、と聞く愁に、答えはひとつだった。


お母さんに、"友達の家泊まることになった"とだけ送信すると、すぐに"わかったわ。明日には帰っておいでね"と返ってくる温かい文章に少しの罪悪感が湧く。

後でこのことを正直に言おうとしている私に、


「俺もその時は一緒に行く」


という言葉がかかり、驚きはしたが先ほどの罪悪感が消えていく。


見覚えのあるマンションに着き、愁の後を着いて行く。

前は、4階で止まったエレベーターがさらに上を目指す。


ーチーン

ー21階です


21…!?

ポケーっと階数が表示された画面を見つめる私の手を、愁が握り足を進める。


1つのドアを通り過ぎ、もうひとつの大きい扉の前にガードをかざし、なにやら機械に目を近づける愁。


ーピピッ


小さな機械音が鳴り、扉が開く。


「入れ」


そう言われ先に扉の中へと入る。


『す、すげ…』


絶対に広すぎる玄関に圧倒され立ち止まる私に、早く靴脱げ、と低い声が背中に刺さる。


急いで脱いだ靴を隅っこに並べると、こっちの部屋だ先に行っとけ、と長い指がある部屋を指差す。


『お、お邪魔します』


言われた通りに部屋の中とは思えない立派なドアを開けると、これまた広すぎるリビングが。


『……』


ここが、愁の、部屋。


グレーと黒で統一された家具。

キッチンはまた別の部屋なのだろうか。

大きい4人掛けのソファが4つ、大理石っぽいテーブルを囲んでいる。壁にはワインセラー、と本棚。


「何か飲むか?」

『!?』


部屋を見渡す私に、後ろから声がかかりビクッとする肩。


『…ここ、愁が1人で住んでるのか?』

「当たり前だ」

『すげ』


まだ立ち尽くす私の前を通り過ぎ、持ってくれていた私の上着とバッグをソファに置いた愁。


『あ、ありが……!!』


ーバッ


お礼を言おうと思った私を、愁が抱きしめた。


「嫌な話、させて悪かった」


車の中でも謝ってくれたのに。


「悪い」

『もういいって』


謝罪を続ける愁は、それを止める私から体を離し、顔を寄せた。


反射的に目を瞑る私に、容赦なくキスの嵐が降り注ぐ。


『…んっ』


ーちゅ


『……んん』


ーちゅ


広い部屋に卑猥な音が鳴り響き、顔が赤くなっていく私をよそに、激しくなるそれは止まることを知らない。


「口、開けろ」


愁の声に力が抜け、へ?と聞き返そうと口を開いた私の中に温かいものが入ってくる。


『んんっっ…んっ』


何もかもが初めての私の体が熱くなっていき、力が抜けていく。


160cmほどの体を、180cmは超えているであろう大きな体が覆う。


立っているのが精一杯の私の腰をグッと寄せた愁は、まだまだ、ともう一方の大きな手で私の頭を強く優しく包み込む。


『…っはっんんっ』


ーちゅくり


追ってくる舌に応えることなどできない子供な私は、さらるがまま。


『しゅ、っう…』


小さな声を絞り出し名前を呼べば、名残惜しそうに離れていく唇。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る