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「失礼します」
「『……』」
再び2人きりになった無言の空間に耐えきれず、目の前の水をごくりと飲み干す。
そんな私から目を離さず見つめる愁と、バチリと目が合う。
『……は、早く食べたい。お腹減った。愁は食べないのか?』
私の子供っぽい発言に愁の表情が柔らかくなった気がして、少しだけ緊張が解ける。
「好きなもん頼め。俺が焼いてやる」
そう言ってタブレットを渡してきた。
ありがとう、と受け取り画面に指を滑らせる。
値段……が書いていない。そういうもんだっけか。
とりあえず数種類のお肉を注文して、タブレットを元の位置に戻す。
「肉が好きなのか?」
『…まあまあ、かな』
「なんだそれ」
『愁は?好きな食べ物とかあるのか?』
「…………卵」
目を逸らしながら呟く愁。
『た、た、たまご…?』
「卵料理が…好き……だな」
意外な回答に笑みが溢れる。
一問一答でぎこちない会話を進めていると、頼んだお肉が届き、愁が焼き始める。
焼けたお肉を私のお皿に乗せ、また焼くを繰り返す愁。
『愁は……食べないの?』
頬張りながらも私だけ食べている状況に気まずくなり、淡々とトングでお肉をさばく愁に声をかける。
「好きなだけ先に食え。余ったら俺が食う」
『え、えぇ、でも……さっきからお腹鳴ってるぞ』
そう。気まずくなったのはたまに小さく聞こえる愁のお腹の音のせい。
「……うるせえ、さっさと食え」
表情を変えずに飲み物を口にする愁に、つい笑いが出る。
『ふっはっっはっ…私が次焼くから食べなって。…ははっっはっ』
厳つい見た目とお腹の音のギャップがツボに入り笑う私に、眉間に皺をよせ、少し焦げたお肉を渡してくる愁。
『そのうち次はよだれが出るんじゃねえか?ほら、次私が焼くから』
笑いながらそう言い、トングを持ち網の上のお肉を愁のお皿に盛る。
「…はぁ。じゃあ遠慮なく」
まだ笑いが絶えない私にため息をつき、愁がやっとお肉を食べ始めた。
『いつも何食べてんの?』
「適当にツマミを」
『手作り?』
「春都がやってるBarで食べるのがほとんどだ」
『Bar…』
「瑞綺は?」
『母親がご飯作ってくれてるから、それ』
「瑞綺は作らねえのか」
『んーー…最後に作ったのは去年のバレンタインかな』
そう言う私の前で、愁の持つ箸がぴたりと止まる。
「手作りチョコ?お前が?」
ふっ、と馬鹿にしたように笑う愁。
『いやクッキーをね、彼氏がいる友達と作ったんだ』
毎年莉紗に付き合わされ、渡す相手のいない私も作る羽目に。
「誰かに渡したのか」
『同じクラブの2人くらいには渡したかな』
これは、旬と染谷。
私の手作りだと言うと、毒とか入ってないよな?と失礼極まりないことを言いながら受け取ってくれたのを思い出す。
「…へえ」
興味が無いのか、私が盛ったお肉をひたすら食べる愁。
まあこいつはモテるだろうから、そういう行事ごとはもう飽きてるんだろうな。
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